社会のダストダス

動物界の社会のダストダスのレビュー・感想・評価

動物界(2023年製作の映画)
4.6
とても面白かった。もし自分が動物になってしまうとしたら何が良いだろうか、劇中カメレオンの子は擬態をすることが出来たので、この力があれば女湯の天井にへばり付いていてもきっとバレな…(自主規制)まあ、シンプルに鳥人間はちょっと楽しそう(飛べるようになるまでに事故で死にそうだけど)

原因不明の突然変異により、人の体が徐々に動物と化していく奇病に見舞われた近未来。変異した人間は”新生物”と呼ばれ隔離され、主人公フランソワの妻ラナもその一人。ある日移送中の事故で大勢の新生物が野に放たれ、フランソワは息子エミールとラナを捜しまわるが、エミールの体にも変化が現れ始める。

舞台はフランスだが他の国に言及される場面もあるため、たぶん全世界的に広がるパンデミックだと思われる。日本はどうなっているかは分からないけど、ケモナーに人気が出て案外平和なのではないかという気がする。

最近観た作品では『シビル・ウォー』のような分断を描いた作品にも感じるけど、本作は法治国家としての体裁は保ちながらも実態としては魔女狩りが行われているような状態。SFな設定だけど、人間の性というか集団心理が働いたときの冷淡さは、残念ながら真実味がある。

主演のフランソワはフランス映画でよく見るちょっと顔が濃い人の代表格ロマン・デュリス、本作でも動物臭さに負けない出汁味の効いた良い顔面と暑苦しさでした(褒めてます)。主人公に時々協力してくれる役で、アデル・エグザルコプロスも出ているけど、ちょっと出番が少なめなのは勿体なかったかな。

しかし、本作のメインの視点人物は息子エミール役のポール・キルシェで、彼の体にも徐々に変化が現れるが、お母さんが猿だったからイケゴリに変身するのかと思ったが狼になるようので遺伝は関係ないらしい。エミールのパートはさながらボディ・ホラーの様相を呈する、爪を引っこ抜くところとか、『ブルー・マインド』のハサミで指のあいだ切るシーン思い出したけど痛すぎて無理。

動物化した人間の造形も良く出来ていて、鳥人間コンテストの人は、猛禽類が人間大の大きさになったら、実際これくらいのパワーがあるんじゃないかと思わされるし、タコ人間は地上での暮らしは大丈夫なのか心配になる。変化の過程にある状態が多く描かれるので、それらはかなり生々しく痛々しい。

ハッピーエンドとは言い切れないけど、フランス映画でこんな爽快なラストシーンを観ることはなかなか無い。家族のドラマ、ボディ・ホラー、アオハル、修行、色々詰まったエンタメ作品。社会的なメッセージが投影されているのを読み解くのも悪くないけど、ストレートにハートに刺さる映画だった。