とらキチ

夜の外側 イタリアを震撼させた55日間/夜のロケーションのとらキチのレビュー・感想・評価

5.0
1978年3月16日に起きたイタリア極左勢力による元首相の誘拐事件を題材に、その全容を事件に関わった人物それぞれの視点で描いていく。
総尺340分にも及ぶ超長編。と言っても50分強の尺で章立てされた6章のエピソードで構成されているので、連ドラを一気見した読後感。
ものすごく丁寧に、当時のイタリアの社会・政治状況が描かれ、それらが誘拐事件の発生要因となっていったことがよくわかる。それを基に政治ドラマやサスペンスドラマ、若者の無軌道な青春ドラマや家族ドラマとして各章が紡がれていき、第5章の後半からは、衝撃の展開とともに最後まで突き進んでいく。
信仰する宗教の教義と国益、どちらを優先すべきなのか?コレは宗教団体を母体とした政党が常に直面するディレンマ。政教分離原則が定着した現代政治に於いて今作での判断はある意味正しかったと言えるのだけど、作品の最後、フッテージ映像を使って詳らかに示される登場人物達のその後の顛末を見るにつけ、はたしてその判断を下した人達に“大義”や“徳”があったと言えるのか?もっと言えばそこに自らの保身のための私情が全くなかったと言えるのか?妥協に妥協を重ねてきた者に対しての結果がコレなのか?そんな巨匠マルコ・ベロッキオの静かなる怒りが大いに伝わってきた。
そしてヴェルディのレクイエム「怒りの日」が、これほどまでにマッチする映画はないな、という強烈な印象。
ちなみに“キリスト教民主党”について調べてみると、今作の主人公アルド・モーロ含め、ほとんどの所属政治家が在職中に汚職や不正をしていたり、裏でマフィアと繋がっており、最終的に党は分裂、解散に追い込まれたようで、そういう意味でもやっぱり70〜80年代のイタリア政治は狂っていてどうかしてる。
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