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BAD LANDS バッド・ランズのnetfilmsのレビュー・感想・評価

BAD LANDS バッド・ランズ(2023年製作の映画)
3.8
 思いっきり石井隆の『GONIN』を思い出したがあれから30年を経た今、西成の底辺にひしめくホームレスや生活保護費ビジネス、それに億り人や受け子、掛け子などの物騒な言葉が飛び交うなどアンダーグラウンドに張り巡らされたネットワークは巧妙に警察の目から逃れる。今作は正に現在の世界線の攻防を描いたヒリヒリとした作品である。特殊詐欺を生業とする橋岡煉梨(ネリ)は何かから命からがら逃れて、今は大阪のNPO法人「大阪ふれあい事業推進協議会」の高城(生瀬勝久)の元に身を寄せている。何より今作の主人公を演じる安藤サクラの目ん玉ひんむき、常に前屈みな性急さが凄まじい。通称「三塁コーチ」と呼ばれる彼女の役割は、受け子のリーダーとしてその場の雰囲気から作られた嘘くさい匂いを嗅ぎ付けることにある。生き馬の目を抜くような貧困ビジネスでは情を持てばすぐに殺られることを彼女は熟知している。親方の高城にも気に入られているが、実際に彼がどんな裏家業に手を染めているのかは探ろうとしない。それぞれの役割分担と持ち場を理解すれば、あえて踏み込む必要などないのだ。

 彼女を中心とするこの奇妙だが絶妙なバランスは然しながら、映画の冒頭から警察の捜査により搦め取られる寸前なのだ。佐竹刑事(吉原光男)は既に「三塁コーチ」に目を付け、彼女の周辺を逐一見張りつつ、様々な包囲網を張り巡らせて行く。その上彼女には、3年前に別れたストーカー気質の実業家が彼女の行方を捜しているのだ。大阪の街に溶け込んだ疑似家族の様相は、ネリの弟・矢代穣(ジョー)の無鉄砲な凶暴性とサイコパスのような登場で大きくバランスを崩す。彼の存在そのものが何か危険な匂いを孕むのだ。監督である原田眞人は一貫して強固なジャンル映画としてのノワール・サスペンスを作り上げる一方で、私にとって原田眞人作品のカットが細かすぎる編集のリズムというのがどうしても肌に合わない。今作もやはり矢継ぎ早な編集のリズムには冒頭から戸惑ったし、一部台詞が聴こえない箇所もあって理解が追いつくのが大変だった。その一方で、ピカレスク的な逃亡に次々に登場する面々の何と魅力的なことか。あの賭場シーンに登場したサリngROCKの内面から滲み出る狂気には、原田眞人の慧眼が感じられた。クライマックスのあの女性演歌歌手の登場場面にも度肝抜かれた。然しながら俯瞰で眺めた場合、江口のりこの出番はあれで正解だったのかと思えてならない。
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