一色町民

BAD LANDS バッド・ランズの一色町民のレビュー・感想・評価

BAD LANDS バッド・ランズ(2023年製作の映画)
4.9
本作はいわゆる“お仕事映画”的な側面もあって、仕事を描いた映画というのは面白いですよね。辞書編纂の「舟を編む」飛行機・飛行場を描いた「ハッピーフライト」フラダンサーの「フラガール」南極観測隊の「南極料理人」納棺師の「おくりびと」等々、枚挙にいとまがありません。
 本作の場合は、ちょっとコンプラてきにはアウトですが、普段は決して知ることができない世界である「特殊詐欺」の仕事ぶりを垣間見ることができるというだけでも面白いです。タイトルロールが出るまでに描かれる犯罪の手口の一部始終を見せるエピソードは、綿密に計画された手口や組織に属する者たちの役割、受け子やネリの役割である現場の指示をする三塁コーチと呼ばれる者たちの危険性、さらにはそれを陰で犯罪を凝視する警察らの行動すべてが生々しいものでした。

 前半部は、そんな詐欺グループの仕事を、早口の大阪弁、細かいカット割り、スピード感あふれる語り口でグイグイと見せ、途中から状況が変わることになります。ネリの血のつながらない弟・ジョー(山田涼介)が、ネリの上司である高城(生瀬勝久)を行きがかり上、殺してしまうからです。ジョーは、何をやらかすかわからないサイコパスなところがあり、それによってネリは殺人の片棒を担ぐことになってしまいます。

 多くの登場人物がいて、ストーリーが次々と展開するのですが、それはスピーディだしアクションシーンもあったりして飽きさせません。
 捜査班(吉原光夫・江口のりこ等々)、金を取り戻そうとするヤクザ、さらに、ネリに執着する超金持ちの元愛人(淵上泰史)らの追っ手たちも魅力的です。特に、2人を助ける時に精神が崩壊する高城の番頭で元ヤクザを演じた宇崎竜童がメチャメチャいい味を出しています。

 「特殊詐欺」の組織も、ピラミッドのような縮図があり、上は指示をするだけで、末端は危険を冒しつつ仕事をして、取り分は回収した金額の1割程度。ネリの場合そこから受け子らに金を渡すという仕組みで、とても割に合う仕事ではなのですよ。でも、彼らはそこから抜け出せない。普通の仕事に就けない者たちはそうした犯罪に手を染めることしかできないということを本作は突きつけるのです。

 ネリが親や愛人に虐げられてきたことを理解しているから、同情的に理解できるし、ある意味応援さえしたくなるから、伏線回収のトリックも含め納得のラストではあったのですが、ただ、その前にあったジョーの命懸けの行動は、ネリとの姉弟関係がそこまで深いとの描写がなかったので、ふたりは本当の姉弟でもないし、ちょっと唐突な感じがしました。

 ともあれ、「お仕事映画」でありながら、姉と弟の絆を描くと同時に、持たざる者同士が助け合って生き抜いていく姿を描いている、ピカレスク映画の傑作と言ってよいと思います。
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