一色町民

コットンテールの一色町民のレビュー・感想・評価

コットンテール(2022年製作の映画)
2.0
 「ぐるりのこと。」(2008年)の夫婦コンビふたたびということですが、16年ですか、二人ともいい年になりましたね。
 タイトルの「コットンテール」は、主人公・兼三郎(リリー・フランキー)の奥さん明子(木村多江)が好きだったピーターラビットの妹の名前から取られたようです。しかし、そのピーターラビットの件が全く意味をなさなくなってしまうのは、なんだかなぁと思わざるを得ないです。そもそも、冒頭の魚問屋でのタコのやりとり、明子との思い出はともかく、あのタコは盗んだのか?
 いい話であるのは間違いないし、キャストの演技も良かったし、イギリスの湖水地方の風景も美しかったです。妻に先立たれた兼三郎の焦燥感は捉えようによっては異常者にも思えるのですが、そこをどう感じ取るのかも本作の評価の分かれ目かもしれません。

 クローズアップを多用した映像が少々暑苦しささえ覚える作品で、物語は単純ですが、心象風景が見えてこないのは演出の悪さか脚本の弱さか、今一つ心に訴えかけてくるものを感じられないのが残念です。

 健三郎の妻が亡くなり、長らく疎遠だった息子の慧(錦戸亮)とその妻さつき(高梨臨)、4歳の孫エミとともにイギリスへ旅立つのですが、健三郎のワガママでホテルから一人で出かけ迷子になってしまいます。幸い、酪農家の親子に助けられるのですが、ただ単に親切な親子というだけで、主人公の心境の変化とか家族の有り様を変わらせるきっかけにもしていないのがもったいない感じがします。
 また、なぜウィンダミア湖なのか(ピーターラビットゆかりの地?)が不明だし、違う湖だったこと(明子の思い違い?)の理由も最後まで明かされません。

 兼三郎、慧、さつき、エミ、のそれぞれの心が交わる場面が一瞬も見えないのは意図したものなのか演出の力不足なのかわからない。かたくなな兼三郎の態度の原因も伝わってこない。
 本作のコピーでは“家族再生を描いた”とうたっていますが、逆に家族間のギクシャクとした不仲が明瞭になる印象さえします。妻を深く愛していることの表現として、彼の頑固で融通の利かない性格が前面に出されすぎな感じ。ラストはとってつけたようで、本当に理解しあったのか?ちゃんと“散骨”出来て良かったねとは思いましたけど。
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