さえちか

グレースのさえちかのレビュー・感想・評価

グレース(2023年製作の映画)
3.5
心を紙やすりで撫でられるようなザラザラした映画。でも嫌な感じではなく、ずっとこの風景を眺め続けていたいと思うような映像だった。延々と走り、ちょっと休憩して何か食べて買い物して、建物や人々の顔立ちや言葉が少しずつ変わっていき、でも人間どこでもやってることは大して変わらないという、旅って所詮こんなものだという実感があった。
曇り空の下で荒涼とした大地を進む旅はワクワクする非日常ではなく、親子にとってはキャンピングカーという家で過ごす日常生活だ。ちょっとした波紋が起きるような出会いもあるが、生活を激変させるようなことは起きず、実に淡々としている。長回しの景色は壮大なのにたいして感動的ではないのは、彼らにとっては数年ごとに通過するだけの場所だからなのだろうか。
たぶん物心ついた頃から当たり前のようにこんな生活をしていた少女が、ポラロイド写真を撮ったり室内用プラネタリウムの光を眺める時は、自分の意志で何かをしたいという内面からの力を出そうとしているようだった。
いつから始まっていつ終わるのかもわからない受動的な旅で、少女が自分の意志で目的の地を決めたようなラストが良かった。
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