帰国便の機内映画にあったドナ・サマーのドキュメンタリー「Love to Love You, Donna Summer」。70年代のミュンヘンやアメリカのディスコカルチャー映像が結構見られるかもというくらいの軽い期待で見始めたが、重みのある人間ドラマだった。監督を務めるブルックリン・スダーノはドナの次女で、女優としても活躍しているが、母の全盛期は知らずに育った。そもそもドナは子どもたちに愛を注ぐ反面で、プライベートを秘密にしたがり、生前には自分の部屋に決して他人を入れようとしなかったという。
彼女を一躍アメリカで有名にしたのは「Love To Love You」(1975年)。当時は「セックス・ディスコ」と評されたスキャンダラスな曲。アメリカでの発売を担当していたニール・ボガード(カサブランカ・レコード)は、発売当初すぐには火が点かなかった原因を探りに、ディスコへ通う。そこでこの曲をDJにプレイさせると、ゲイのダンサーたちが熱烈に反応し、「もう1回かけて!」と懇願してくる。そのとき、「そうか、曲を長くすりゃいいじゃん!」。ボガードはこの曲の20分に及ぶ12インチミックスを制作。そこから全米2位までたどり着くのはすぐだった。ディスコでロングミックスが好まれるようになった黎明期のエピソード。当時、彼女自身は離婚して、バブルガムっぽいポップソウルを歌いつつ、ミュンヘンで次のキャリアの幕開けを待っていたところ。やがてジョルジオ・モロダーを音楽パートナーに迎え、彼女の歌を通じてディスコにシーケンサーという音楽革命が持ち込まれ、ポップシーンに飛び火。やがてドナ・サマーはセックスシンボルから「クイーン・オブ・ディスコ」と呼ばれるようになる。そんな急激なスターダム騒動のなか、彼女は自分の歌をあくまで「演技」ととらえて葛藤し、シンガーとして自分にできる役割を考え続けていた。