おそらくアメリカの政治情勢とかを知らずに見ると、意味が分からないと思われる。本作は「不思議の国のアリス」のように、アメリカのアンダーグラウンドな世界を次々と垣間見る異色ロードムービーである。
「不思議の国のアリス」よろしくミュージックバーにあった秘密の通路を通るところから物語は動いていく。Qアノンのような陰謀論を信じる過激派、パンク・ファッションのアーティスト兼活動家、ネオナチ、エレクトロミュージック好きのイスラム主義者など、現代アメリカの諸相を主人公のを通しエモーショナルなタッチで描く。どこか幻想的で夢想的だ。
途中まで真面目に見ていたが、銃乱射事件のあたりで完全に皮肉というか、茶化しているなと思った。ただ暴力的行動の恐怖と、一方で、それが滑稽に見えてしまうユーモアが錯綜しているのが面白い。これが監督が描き出した「不思議の国=現代アメリカ」なのだ。
主人公のリリアンの名前の由来は、女優リリアン・ギッシュだろう。監督D・W・グリフィスと親交があった女優である。劇中でグリフィスの映画で出てくることからもわかる。映画評論家の町山智浩氏が監督にインタビューした動画がYoutubeで観れるが、50分近いためまだ観ていないが、観ることで理解が深まるだろう。