ベルベー

くるりのえいがのベルベーのネタバレレビュー・内容・結末

くるりのえいが(2023年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

別にくるりの大ファンというわけじゃない自分でもちょっと泣きそうになるくらい胸に来たのでくるりファンは号泣必至なんじゃないだろうか。音楽と日常の愛おしさを思い出させてくれる良いドキュメンタリー映画。

テロップもナレーションもない。50手前のおっちゃん3人が学生バンドみたいな和やかさでレコーディングして、ライブして、飯食って、酒飲んで。そんな日常の風景を淡々と映すだけ。でもそのおっちゃん3人が「あの」くるりのオリジナルメンバー3人だという文脈が乗っかってくるだけで、日常の風景の重みがぐっと増す。

「東京」「ばらの花」「ワンダーフォーゲル」等数々の名曲を作りながら、バンドの変化についていけず辞めざるをえなかった森信行。その後メンバーが全く定着せず、辞めた人は森を含めて実に6人、残ったのは結局岸田と佐藤の2人だけ。「ブラック企業」とまで揶揄されたくるり。それがどうだろう。カメラに映る3人の、なんと和やかなことか。

ちょっと騙されてんじゃないかと思ったもん笑。バンド組み始めの若者みたいに楽しそうにジャムセッションして。伊豆の自然を楽しそうに満喫して。カメラの前だからって自分を偽れるバンドじゃないって、分かっていても疑ってしまうくらい和やか。でも最早騙されててもいいやまで思った。観ていて幸せで切なくなってくるんだもん。なんで50手前のおっちゃんにこんな感情抱かないといけないんだ。

佐渡岳利監督、AKB系のドキュメンタリーは未見で、Perfumeのドキュメンタリーはほぼライブ映像だったので、日常の風景をこんなに美しくカメラに収める人なんだって初めて知った。日差しが暖かそうで、風は涼しそうで、飯は美味そう。この3人に解説なんて要らない、映像だけで空気感が伝わってくる。良い作りだなと思った。

途中挟まれるライブの3曲も素敵だし、後半の「In Your Life」レコーディング風景も興味深い。スマパンの「Today」を彷彿とさせる「東京」でデビューした3人が「1979」オマージュなリフの新曲をレコーディングしてるの良い。

しかし、ラストの岸田と森へのインタビュー。じゃあ3人でこれからずっとくるりかと言うとそうではないんだろうなと感じられるところがまた切なかった。楽しそうに集っていたけど、その裏ではやはり色々な葛藤があったようで。一度別れた道が再び合流した幸せと、また別々の道を行く予感への寂寥。でもネガティブな感情だとは思わなかった。前向きな切なさ。

「ばらの花」の歌詞、ずっと自分の中で上手く解釈できてなかったんだけど、この映画を観て滅茶苦茶腹落ちした。

"安心な僕らは旅に出ようぜ 思い切り泣いたり笑ったりしようぜ"

一期一会で繋がれた美しい事実が胸にあるから、安心して旅に出ることができる。例え別々の道でも。バンドは永遠じゃないんだなって当然をあらためて突き付けられてしまう今日この頃だからこそ、心に刺さる映画でした。
ベルベー

ベルベー