ビンさん

卍(まんじ)のビンさんのレビュー・感想・評価

卍(まんじ)(2023年製作の映画)
4.0
シアターセブンにて鑑賞。

谷崎潤一郎のあまりにも有名な原作を、令和の時代に最映画化。

いわゆるレズビアンがテーマとなっているため、原作発表当時は現在以上にセンセーショナルだったことと思う。

昭和、平成を経て、令和になってようやく原作の内容に世間が追いついたような印象があるが、逆にでは今の時代で本作が映画化されたその意義たるや如何に。

原作を読み、過去の映像化作品をご覧になっていれば、本作のクライマックスに、諸々思うところもあるだろうが、個人的にはじつにいい結末になっていたと思う。

まず、タイトルから言えば、主要登場人物は4人でなければならない。
83年版の横山博人監督版(樋口可南子、高瀬春奈主演)は、主演人物が3人だったので、原作の大胆な改変以上に、すでに卍ではなく△だったので論外だ(作品自体はユニークではあったが)。

今回の井土紀州監督版は、ちゃんと主要人物4人の物語となっている。
光子(新藤まなみ)と園子(小原徳子)の設定も、光子の恋人エイジ(黒住尚生)、園子の夫孝太郎(大西信満)の設定も現代風にアレンジされているが、その位置関係は原作を踏襲している。

面白いのは、光子が園子のことを「お姉ちゃん」と呼ぶのも原作通りだが、今回の映画版ではなぜそう呼ぶのか、明確な演出がされているのが、なんというか清々しかった。

原作を含め、過去作は光子が単に親近感を持って園子のことをそう呼ぶのだが、それは二人だけの世界に結実している。
しかし、今回の映画版では外部からの影響もあるのだ。
それによって、二人だけの世界ではなく、いわゆる世間的にも認めた関係だと二人が思い込むわけで、それによってより親密な関係になっていく、いわゆる拍車のような演出がされているところが、なるほど、と感じた。

また、これは本作の確信に触れるので詳しく書かないが、過去作のような小悪魔的な光子ではなく、何故園子を裏切るような展開になるのか、その点についても見事な演出がされている。
それによって園子の未来への方向性も、じつに前向きなものになっているのは見事だと感じた。

やはり、ここは脚色を担当された小谷香織さんが女性ということもあるのだろうが、この令和の時代に本作が映画化された理由はそこにあったのだと確信した。

原作や過去作を知っている者には、オープニングの園子が切羽詰まった形相でBMWを走らせるところに、ああ、ああいうことだな、と思わせるところがいい意味でニクいな、と感じた。

シアターセブンでの初日、満席の中、小原徳子さんによる舞台挨拶がまた素晴らしかった。
まず、過去の映像作品のプチ解説という、親切なところから始まって、やはり触れずにおれない新藤まなみさんとのシーンでの秘話等、興味深い内容も。

さらに、観客からの質問がまた良くて、小原さんの俳優としての矜持のようなことなど、ここでしか聞けなかったであろう貴重なお話も飛び出して、本編以上に俳優小原徳子の魅力が炸裂したと感じた。

小原徳子という俳優を知り、そして応援している者としても、誇るべき作品に仕上がっていたと思う。必見。
ビンさん

ビンさん