このレビューはネタバレを含みます
マイケル・マンのフェラーリとかと同じで一伝記映画としては失敗してるけどその監督の趣味映画としては悪くないそんな作品だと思う。
本人プロデューサーに入ってたけどプリシラの伝記映画もしくはドラマ映画としては中々に酷いのではないか。
けど「ソフィア・コッポラの映画」としては悪くない。
ヴァージン・スーサイズ、ロスト・イン・トランスレーション、マリー・アントワネットなど初期作を彷彿とさせる演出が多く衣装や美術なんかもいつも通り可愛いしであの頃のソフィア・コッポラが好きだった人なら結構楽しめるかなと。
けれど物語的には抑揚もリズムもなく後半はぶつ切り編集ばかりでプリシラの内に秘める孤独やストレスや感情の揺れが描ききれてないのが残念。
まあソフィア・コッポラの作品に深い人間ドラマなんて求めてる人も居ないだろうしこの作りで正解なんだろうが。
敬虔なクリスチャン家庭で育ったとある女性の抑圧と解放の物語でもあるけどそれ以上の物がないんよな…。
説教臭くないのがソフィア・コッポラの良さではあるけど。
エルヴィスをクズとして描いたのは今作が初かもしれないからそこに関しては偉業。
基本的にこの人の映画って初期作からテーマは一貫していてなにかに縛られていたり閉じ込められていたりする女性達がいつも主役になっている。
プリシラを演じたケイリー・スピーニーの演技はお見事で彼女のおかげでなんとか伝記映画の体裁を保つ事が出来ていた気がした。
あと単純にプリシラのメイクや髪型もまあよく似合うしヴィジュアル的にも最高だった。
エルヴィスを演じたジェイコブ・エロルディの演技に関しては微妙に感じたな。
電話越しの声だけ聞くとエルヴィスに聞こえたりもしたけどそれ以外では平凡。
見事な憑依っぷりだったオースティン・バトラーのエルヴィスがどうしてもちらついてしまう。
それとユーフォリアのネイトにしか見えないという問題もある。
ある意味大根役者にエルヴィスを演じさせた事によってエルヴィスそのものも滑稽で薄っぺらに見えたからもしそれ込みのキャスティングだったのだとすればそれはそれで正解なのだが。
中身の薄いいつものソフィア・コッポラ映画と言えばそれまでだけど今のハリウッドの時流にもあらゆる政治的正しさや評価基準にも乗らずにあくまで自分流を貫く彼女の姿勢にはあっぱれ。
これからも彼女らしさ全開の作品を作り続けていただきたい。