水蛇

プリシラの水蛇のレビュー・感想・評価

プリシラ(2023年製作の映画)
3.3
紫の上のたどる道も、南にいくほど男らしさが有害になるのも国は違えど一緒だよね…10歳上のスーパースターがペドフィリアマザコンモラハラ男だった時、14歳の少女に何ができるっていうんだろう。ひたむきで純粋で不幸なヒーローとして描かれたラーマン「エルヴィス」では隠されてた面であり、ソフィアが語るようにひとりの女性が大人になるまでのタフな伝記。

開始20秒でもうエルヴィスとの出会いに向けて準備が整うスピード感そのままに淡々とザクザクとカットを繋いで異様な速さで展開していく。3時間の映画が珍しくもなくなったこの頃では新鮮だったけど、それが映画的に功を奏したかといわれると微妙。エピソードの羅列の観は否めない。否めないんだけど、でも第三者が支持できないような矛盾した個人の歴史をしっかり尊重して讃える姿勢に胸をうたれなかったといったら嘘。わたしはあんな人と結婚どころかデートもごめんだし、友人のパートナーだったら別れろの大合唱だろうけど、でもプリシラしか知らない瞬間も絶対にあるはずだから。根っこは卑怯な家父長制の申し子だとわかった後でも、彼女だけが知ってるあのときかけられた言葉、あのとき撫でられた背中、あのとき笑いあったジョークは汚されないんだろうね。わたしにもそういう正しくない記憶はいくつかある。

だからエンディングのあの曲はそういうことだと思う。ソフィアはエルヴィスを讃えてるんじゃなくて、エルヴィスとの愛に飛び込んでズタボロになって大人になったプリシラを絶対に裏切らないと決めてる。もう一度14歳に戻ったとしたらおなじことをするかと訊かれたらノーでも。というかノーであってほしい。そのくらい最悪。やっぱり取り巻きひきつれてる人間は老若男女問わず警戒すべき。それ以前に14歳とふたりきりになるなだけど。キモすぎる。

「赤ちゃんはほしいと思ってたけどこんなにすぐのつもりはなくて…」という幼妻が一番しんどかったかもしれない。セックスのタイミングは俺が決める男(やばすぎ)が避妊の意向を相手に訊くわけないもんね。あれは強烈に辛かった。プリシラの幼さと小ささがのしかかる。

ソフィア印のサントラと衣装と美術でさえ救えない世界だったな…なんか今回はソフィアじゃなくてもって思ってしまった。
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