ひろぱげ

オアシス 4K レストアのひろぱげのレビュー・感想・評価

オアシス 4K レストア(2002年製作の映画)
5.0
やはりもの凄い作品だ。映画の強度が強すぎる。

ジョンドゥがコンジュを襲うシーンで、二人が初めて言葉をやり取りするシーンで(コンジュを「お姫様」と呼ぶのは、彼女の名が、王の娘=王女=公主(コンジュ)と発音が同じだから)、母親の誕生日会で、踏み込まれた場面で、警察署で、木の枝を切り落とすクライマックスで、感情が何度も何度も昂ぶり、その度に歯を食いしばってしまう。

高速道路でのダンス、からのインドの踊り子と子供、仔象による祝福。この素晴らしさを何に例えたらいいのか。

イ・チャンドン監督の他の作品と違い、ジョンドゥとコンジュは不幸ではない。抱えきれない程の悲しみが襲うわけでもなく、貧困や格差に苦しんでもいないし、過去のトラウマから人生を破滅的に過ごしてもいない。ジョンドゥとコンジュは、側から見れば「不幸」な境遇なのかもしれないが、彼らは生まれもってああなのだ。社会的にはみ出しまくっているから、むしろ一般社会の幸・不幸、善・悪という尺度では測れない。ファンタジックな演出も他作品からすると異質に感じる。でも、これが有ってこその「オアシス」だと思う。

一方、よく考えると、この作品はイ・チャンドン全部乗せじゃないか?
娑婆への帰還、男兄弟のはみ出し者、脳性まひの家族という点で「グリーン・フィッシュ」、主演のソル・ギョングとムン・ソリは「ペパーミント・キャンディ」の初恋の二人だし、キリスト教が何も救ってくれないのは「シークレット・サンシャイン」に通じ(やはり天を仰ぐし)、自分の事しか考えず胸糞悪い言動ばかりする周囲の人間達は「ポエトリー」の父親達とダブる。

監督の実の姉は脳性まひによる障害者だったそうで、子供の頃、外出すれば周りのクソガキ達に「バカ」と罵られ石を投げられたりしていたとドキュメンタリー「イ・チャンドン アイロニーの芸術」で語っていた。コンジュのモデルは姉だったのだ。そのあたりが、この作品を単なる「障害者もの」と片付けられない理由だし、あのスーッと立ったり歌ったりする演出は、子供の頃に抱いていた純粋な願いの投影なんじゃないかと思うのだった。
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