ごんす

月のごんすのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.8
この作品は世に出るだけでも許せない人もいるだろうし人を強く傷つける映画だということは間違いないと思う。

観る前からある程度覚悟をしていたけど映画が始まると基になった事件や犯人と比較して観るようなことはなく、あくまでこの映画から訴えられてくるテーマのようなものを感じたり、映画の中の人物達を見守っていた。
けれど終盤一瞬で当時報道で見た実在の犯人の顔を思い出した。

事件を起こしてしまう施設で働くさと君を演じた磯村勇斗の役作りが凄かったのもあるけれどそれだけではなく、もう現実に起きてしまった事件のことを忘れていたり考えない様にしていた自分には戻れないんだと認識して怖くなった。

最近の石井裕也監督の作品でよく見られる立場の弱い者を押さえつけるような描写は本作でも容赦なかった。
(それが過剰に感じてどうなんだろうと思った作品もいくつかある)
立場の弱いものが更に立場の弱いものを抑圧、搾取する様は被害、加害どちらの立場でもどうしても身に覚えがある。
凶行に及んださと君もその連鎖の中に身を置いていた人物だと映画では感じた。

苦しい時間が多い中、少しの連帯に希望を見出だせる瞬間がやってくる所などは過去作の『茜色に焼かれる』を思い出し、あの話も本当に辛かったなと思ったが観賞後感は本作に比べると分かりやすく前向きだった。
本作は本当に怖い。

心配してくれる人、好きでいてくれる人の存在が救いになると信じたいけれど愛は決して万能なものじゃないと突きつけられた所は全く違う物語だが今年観た映画『THE Son/息子』でも感じた。

障がい者施設のみでなく主人公洋子と昌平の夫婦、施設で働く陽子とその家族、さと君とさと君の彼女とそれぞれの日常を見せることも効果的で一見“普通”に見える、何なら豊かな暮らしに映る家族団欒が作り物であり嘘で塗り固められていると主張してくるような不自然なズームがあったのが印象的。

修羅場宅呑みが終わった後、夫婦で皿を洗うシーンなどは地獄じゃないかと苦笑してしまった。

『月』というタイトルは色々な形で回収されていくけれどやはり終盤のショットは強烈だった。
さと君が傾倒していった思想、主張は全く賛同できないし強く否定できる自分でいたいと思う。

いくつかのシーンについての感想はコメント欄に。
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