2016年に実際に津久井やまゆり園で起きた事件をモチーフにした小説の映画化です。
障害者施設で45人もの障害者が殺傷された衝撃の事件でした。
観る前はナゼ賛否両論なのか疑問でしたが、観るとなるほど・・・
確かに安易に素晴らしい映画だとは私にも言い切れませんし、誰もが見るべき作品、と言うには躊躇してしまいます。
この事件は、今年公開された『ロストケア』にも影響を与えているでしょうし、『プラン75』の冒頭でも、明らかこの事件を模した事件が描かれていました。
上記の映画では高齢者問題として扱っていますが、実は障害者の問題とも大きく重なっており、もっと広く言えば家族の問題であり、人間の問題でもあると思います。
「障害者は不幸しか生み出さないから殺した方がいい」という“さとくん”の主張に宮沢りえ扮する主人公は“認めない”とただ言い返すだけで、明確に反論することも、障害者の命だって大切だと説得することもできません。
そして、“さとくん”は家族のため日本の将来のため世界平和のためと言って彼らを殺します。
多くの人たちにとって自分とは関係のない世界の話であり、障害者に少しでも関心のある人しかこの映画は観ないでしょう。
推し俳優が出ているから観るという人はいるかもしれませんが。
では、映画というのは問題提起なのであり、どう受け取るかは観る側の自由と、この映画の場合は言ってしまって大丈夫なんでしょうか?
多くの人が本作を観て得た情報だけで結論を出しかねない危険な映画だと私は感じました。
実際の事件が起きた時も、犯人への共感や賛同がネット上に飛び交ったそうです。
亡くなった被害者たちの名前が家族の希望により匿名とされたのも物議を醸しました。
この映画、何かがいろいろと引っ掛かります。
障害者、その家族、施設の職員、その他の人たちの描き方のバランスのせいでしょうか。
たとえば、障害者たちの笑顔はほとんど出てきませんし、障害者の母親を一人だけ登場させて、それを多くの障害者の家族の代表のように描いているのも無理があります。
個人になぜ障害者たちを裁く権利があるのか。
喋れないと意思疎通できない、心が無いとなぜ言い切れるのか。
自分の判断こそ正しいと言い切れる傲慢さはどこから来るのか。
障害者の家族の一人として、どうもこの映画への冷静な評価がまだできません。