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月のmitoのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
3.8
2023年120本目。
石井裕也監督が記憶にも新しい相模原障害者施設殺傷事件を題材にした作品。

永らくヒット作が出ていない小説家がアルバイトとして障害者施設へやって来て、施設の裏側を目撃してしまい、やがて、その闇深い環境で1つの結論に達した同僚が凶行に及ぶ…という流れ。

・障害者介護という終わりのない施し
・一部障害者施設の杜撰な管理
・従事する介護士側の精神的な負担

など、
何故このような出来事が起こったか、を反芻するような内容になっている。
この事件をテーマとした事、磯村勇斗さんが演じた犯人となるさとくんの心情の変容の演じ分けは見事。

反面、日本映画故なのか、テーマに対して、突っ撥ね方が少し弱いとも感じた。

前述の通り、この映画の主観は女性小説家で自身も心臓に疾患を持った娘を亡くし、それをキッカケにスランプに陥っている、という設定。
恐らく、さとくんと対比として、反論的立場と描いているのだと思うが、果たしてさとくんにこの救いがあったら悲劇は起きなかったのか。

言い方は最悪だけど、このテーマを取り扱うとしたら、本意不本意はさておき、さとくんに少しでも観客に共感を与えられたら勝ちだと思う。
勿論、事件の正当性を主張する過激派を増長させる、といった批判は出るだろうが、それこそが事件が孕む問題なのでは?

ニュースで犯人の供述を見た時に、脳裏の片隅で僅かに共感し、何とも言えない複雑さを抱いたあの気持ちを引き出せたら、この映画は更に上の階層に達していたと思う。
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