ゆき

月のゆきのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.0
あぁいう、の境界線。

果たして私は、同じではない。と言い切れるんだろうか。

当たり前にみんな何かを隠していて、過去にぶち当たった現実が与えてしまった影響や本音を露呈させていく。知るほどに、瞳の奥の曇りに納得できてしまうのが嫌になるほど。

表情のゆがみや煮え切らない言葉の意図が明るみになると、顔の重ね方や対比の対象が変わっていく演出が印象的だった。

「心」は何をもって証明できるんだろう。

深い森の奥にある施設。その中でもさらに隠された存在たち。書けない小説家と夢を追う夫。目標を支えに生きる女、前向きに取り組むほど矛盾と対峙することとなる青年と聴覚障害を持つ恋人。

音を遮ったり、何かを隠したり、そもそも目を背けたり。映像自体が隠蔽体質で、人間の冷温に触れているような魅せ方のおかげでスクリーンにのめりこむ144分だった。

一組の夫婦と、一組のカップル、二組の親子。誰かと生きる温かみも感じつつ、明るいけれどどこか不穏な光が物語を締める。

月が追いついてくる前に、強い意志をもって、持久力を大事に、頑張って生きるのみだ。
鬼気迫る感覚に追い込んでくれる作品に係る製作、出演のみなさん。本当にすごい。
****
重度障害者施設で働くこととなった、作家の女性。同僚には作家を目指す女性と紙芝居を作るような明るい青年。その施設には作家と同じ生年月日の入居者がいた。しかしその部屋は光も入らず、体は拘束されている。いい環境とは言い難い施設と夫と暮らす家の往復の中、その日は刻一刻と迫っていた。
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