石井裕也ということで鑑賞。
STAR SANDS
【その「大丈夫」を信じたかった】
倫理的に正しいことはあるんだけど、でも正しいからと言ってそれに対して無思考でいていいわけではなくない?っていうメッセージは強烈だったし、そういう思考に没入させてくれる本編だった。つまり常識だと思っていることを疑え、のような。
三宅唱を浴びちまった私としては、演出的な映画すぎて宮沢りえの演技が全然入ってこなかった。テーマが掘られていく過程でやっと入ってきた。
石井裕也作品にありがちな、怒りとかクセ強登場人物とかは今作に出てこなくて、監督本来の作風っていうものをだいぶ抑え込んでいるという印象。本音を隠して怒りながら泣きながら生きているオダギリジョーぐらいにしか石井イズムを感じなかった。
ジリジリと怒りや迷いを観客に抱かせはするけど、明確な答えは示されることがなかった。
エンドロールで感じたけど、役者のセリフが役者の身体からかけ離れていると感じて、物語が地に足着いてない感じがしたのは、昔の大作映画とか見てる時にこんな感じになってたかもしれない。なんというか、役者の感情の流れとかは置いておいて、役者が物語のための装置になり下がっているような感覚。
「新聞記者」よろしく、スターサンズ配給作品として、「真実は何か?ファクトは何か?」ということを文春よろしく度々突きつけてくる作品だった。
知り合いが言ってたけど、これって実話ありきの映画で、実話こそ全てであって、実話がない状態でこの映画が公開されたとしてもなんの価値もない作品になるんじゃないだろうか。
磯村勇斗、ほんとに役を選ばない俳優だと思うのでこれからも注目しなくては。
あとさとくんの手話を使う彼女が好きだった。特に犯行前のハグシーンのカットはグッときた。何で彼女が好きかというと、この映画の人物って一人語りが多すぎて全然コミュニケーションになってない、主張はあっても対話がされてないケースが多いと感じたけど、彼女のコミュニケーションは相手の声をしっかりと受け取っているなと感じさせたからなのかもしれない。
挑戦的な題材で、この役者でよく撮ったとは思うけど、暗すぎ!内容も映像も。あと知り合いに実話モノの映画の価値について言われてなんかいい映画に思えなかった。しかし暗くどんよりした気持ちに観客を突き落とす意味では強い映画。ということでこの評価。
映画館を出た時に外が思い切り晴れていなかったら心をやられていたかもしれない。
事実が全てなので、映画にするには小説を原作にするんじゃなくて、もっと小説を拡大して緻密に描かれるべき部分が多かった気がする。
でも正直予告に全てが詰まりすぎていて、もうこうなるよなーって予想つくよね。
井上陽水が好きで障害者への暴力を許さない人はブチ切れそう。「東へ西へ」って心乱れてる時に聞きたくなるとはわかるし口ずさみたくなるのもわかる。