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月のgolのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.2
例えば、世の中の「善」の部分だけを抜き出して、人間とはこうあるべきだ、こうあって欲しい、といった希望の物語の映画があるとする。
自分はそういう物語が大好きだ。
甘いとか、偽善だとか言われたとしても。
何故ならそれは人の願いだから。
映画なんだから願ったって良いじゃないか、と思う。

今作はそれとは真逆で、ただただ人間の悪意を表現している。執拗に、意識的に。
映画の構成自体が非常に悪意的なのだ。

確かにこういった悪意は現実に存在しているだろうし、実際の事件がモチーフになっている訳だが、劇中で語られているように、目を背けているとか、それに向き合わなくてはならないとか、それって本当に必要だろうか?と思う。

人がこういう事に目を背けてしまうのは、劇中で語られている様な、現実を見ていない、というのとは違って、人間の防衛本能なんじゃないかなと思う。
目を向けてしまう事でそれに飲み込まれてしまわない様にする為の。
そして個人的にはその行動は、正しいと思うし、わざわざ見る必要はないとは思う。

見る事で何かしらの悪影響を受ける人もいるだろう。「JOKER」のように現実社会に影響があった前例もある。

ここまで意識的に悪意に満ちた作品を世の中に放たれる、映画だからと軽視してはいけないし、モラルとして疑問に思わざるを得ない。

サイコパスや猟奇殺人を描いた作品は他にも沢山あるが、自分がこの作品の在り方を心配するのは、それだけこの作品が現実に即した優れた、クオリティの非常に高い作品だと思うからだ。

最大級に評価した上で思う事は、作り手には今一度自己の作品の強度を振り返ってみて欲しい。
この作品の強度に耐えられない、負けてしまう人もいると思う。

その意味で、個人的にはこの作品を肯定する事は絶対に出来ない。
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