マインド亀

ダム・マネー ウォール街を狙え!のマインド亀のレビュー・感想・評価

4.0
ダイヤモンドハンドの市民革命!

BLACKHOLEにてお便り採用されました。
https://www.youtube.com/live/A1kKfEmaq3A?t=4065
2024年2月17日大幅追記しました。

●個人的には経済や株式のことはめちゃくちゃ素人なのですが、こういうウォール街映画が好きなんです。特に金持ちが相場を読み誤り落ちぶれていくさまを見るのはこの上なく幸せ。こんな私にとってこの『ダム・マネー ウォール街を狙え!』は最高の映画でした。

●なんせ、経済のことがわからなくてもめちゃくちゃわかりやすい構図とストーリー。富裕層VS一般人、巨額のカネで会社を潰して儲けるVSなけなしのお金で株を買って増やす、汚い手を使って潰しにかかるVS横の連帯でみんなを信じて勝つ、こういう構図がはっきりと成り立つため、シンプルに盛り上がれるし面白いんですね。

●私もこのゲームストップの事件を書いた記事を日経新聞で読んだのは数年前。その直後、映画化決定の記事が出て、どんだけ取り掛かったのが早いねんっ!って感じでしたね。
コロナ禍の事件でしたから、この映画を観てると昨日の事のように「マスクをしなさい!」と怒られていたことを思い出します。やっぱりこのスピード感って大事ですよね。歴史上の出来事でなく、「今」の出来事だし、ウォール街によって崩壊していた自由経済への監視の目を緩めてはいけない、って再認識させてくれるんですよね。特に悪役となる実在の人物の映像も出して徹底的に馬鹿にしてるんで、こーいうのって本当にアメリカならではだよなあ、って思います。オンラインで公聴会に出席するのに、背景が金持ち過ぎる、という理由で場所選びに揉めるのも面白い。あと、ポール・ダノ演じる主人公は、実物のほうがポール・ダノよりも男前でしたね(笑)

●ところで、私の周りでは昨年くらいから急に会社の同僚や取引先や上司が、シン・ニーサだ、井手湖だと何を言っているかよくわからない投資の話をし始めました。年明けから案の定株価は上昇、昨年からテレビでは一般市民にまで投資を促すゴールデンタイムの番組が急激に増えました。
そもそも所得倍増計画をうたっていたはずの岸田政権が、資産倍増計画にヌルっと舵を取り直したのもおかしなはなしですが、これにマスコミもこぞって乗っかっているのが何やらおかしい感じがするのです。
「個人が株式投資を増やせば日本経済は活性化する」狙いがあるのでしょうが、考えてみれば、そもそも企業業績がアップしてるわけでもなく、著しい成長の実態がない中でいくら税制優遇で誘導していても、何も起こらないはずです。ここで得するのは一体誰か。
そう、それこそすでに株式や投資信託を持っている富裕層。つまり日本では政府が主導して、ダムマネーによる利益を富裕層が得るだけの結果になる可能性が高いのではないでしょうか。
ロビンフットが作り出した個人投資家の投資への過熱ほどのようなものが無いにしても、一生かけてコツコツ積み立てた運用資産が、投資会社によるマネーパワーによってゼロになる可能性もあります。政府主導で疑似バブルのような状況を作り出しているのが更にたちが悪い。

●そんな中、本作の鑑賞は、資産運用を通して自分がどうありたいか、どんなふうに社会に貢献していきたいかが大事だと考えるきっかけになりました。
そもそもヘッジファンドが正当手段として用いる「空売り」は、やってることは違法でもなんでもないことですが、「人の失敗に賭ける」「沈む船から利益を得る」というまさにTHE・非情な手段であるため、貧乏人からすると非常に胸くそ悪く見え、ヘッジファンドは市民の敵と言われ、後ろから刺されても仕方がありません。過去にはトイザらスが倒産に追い込まれ、キリンのマスコットキャラクターがしょんぼりと閉店した店の前で立ち尽くしていたシーンが同情を集めていました。しかしながら投資とは、儲けたもの勝ち。正義もクソもありません。
本作のウォール街の悪人たちは、はっきり言ってアウトな手を使って株を買えないようにしてくるんですね。こんなにわかりやすい悪役、もう同情の余地もない。まあヘッジファンドのキレイな奥さん、ちょっと同情しちゃいましたけどね。

●一方、本作の主人公は、相場師でも天才的なアナリストでもないんですね。単に、諦めないし信念があるし一般市民の連帯を信じている。そして、市場は誰にでも開かれるべきだとずっと言っている。極めつけは『等身大』を守り続けているからみんなに信頼されることになってるんですね。もう、正論しか言ってない気がします。
また、本作ではあまり触れられていませんが、2020年からゲームストップの株保有を開示した、ライアン・コーエンも、今回の株上昇の立役者で、彼はゲームストップの建て直しをはかり、報酬無しのCEOに就任し、彼も個人投資家の中でも人気の存在だそうです。
彼らのように投資とは企業を育成し応援する、いわば「推し活」のようなものであって欲しいと思うばかりですし、彼らとヘッジファンドのハゲタカ共と比べて、どっちになりたいかを自分に問うてみるべきだと思いました。

●正直、ゲームストップの株の上昇は、一晩明けていきなりあがるものではなく、なんとなくヌルっと上がり続けるんで、そこにカタルシスは足りないんですが、強制的にサイトを閉鎖され、株を買えなくされてからは、逆に燃え上がるというか、革命の狼煙が上がった!という形でグググッとストーリーが盛り上がる。でも、一旦落ち込んだ時に深刻になりすぎないのは主人公の弟の能天気さとバカらしさ。そして奥さんがやっぱり強すぎるし、主人公を信頼してるからこそ、ですよね。

●ネット民一人ひとりにストーリーをもたせてミクロな視点の群像劇にしていくやり方は、『電車男』みたいな映画でも取り入れられている手法なんですが、正直あんまり私は好きじゃないし、ダサいとすら思ってるのですが、それでもこの映画には代わりの方法もないのかなと思いました。むしろ、みんな応援したくなる人達ばかりで、まあ、良かったかなあとも思います。みんな頑張ってんだなあ。

●また余談ですが、驚くべきことに、ライアン・コーエンとほぼ同時に、マイケル・バーリが3%のゲームストップ株を取得していたそうです。マイケル・バーリは『マネー・ショート』で、クリスチャン・ベイルが演じ、『近年では「水」を投資対象にしている』という恐るべき、あの鬼才です。究極の投資家は将棋の一手のように先を見据えているんですね。私のような先を見据えられない人間は、ダムマネーの肥やしとなって、一生金持ちに食い荒らされるのでしょうか。

●この事件後、ウォール街はこの小口投資家の動向に注意を向けるようにもなったし、空売りも減少。まさに一般投資家の革命となったわけです。いやあ〜久々にスカッとする映画観ましたね。感動したなあ〜。『マネー・ショート』はなんだかちょっと後味は暗かったからなあ〜…。『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のクレイグ・ギレスピー監督、さすがです!!同居してる息子が早い段階からこのゲームストップ株に投資をしていたからこその臨場感なんですって!
是非、経済の映画が苦手な人にも見て欲しい映画です!
マインド亀

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