はる

Fair Play/フェアプレーのはるのネタバレレビュー・内容・結末

Fair Play/フェアプレー(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

女に能力で勝てない男が、最終的に「暴力」という、絶対に女に勝てる方法で反撃をすることは、残念ながらゼロではない。いつルークがエミリーに、その絶対に選んではいけない方法をとるのか、見ている最中怖くて堪らなかった。
エミリーに昇進で先を越されたルークが筋トレをしているシークエンスはあまりにも象徴的だった。彼女の能力の方が自分のそれより上であるかもしれない、という疑念を抱いた瞬間から、恋人としての、愛情表現としてのセックスはできなくなった代わりに、憎しみをぶつけるように、暴力としてのセックスはできているのも。

「マイ・インターン」で、仕事をせずに家庭に入った自分を、何か劣っているように感じている男が出てきた。あの映画ではご都合主義とも言うべき物わかりの良さを全員が発揮し、大団円に納まってしまったが、あそこで描かれていたことをより現実的にしたのがこの映画だと思う。「マイ・インターン」は十年近く前の映画だが、今でも私たちはこのテーマを乗り越えられていない。数百年、数千年と続いてきたものをたった十年で劇的に覆えすのは難しいとは思うものの、そのことに少し傷付く。

女で会社員をやっていると、たまに嫌なことを見聞きする。この映画を見て、これまで嫌だと思ったことをいくつも思い出して、見終わった後もずっとそのことについて考えていた。
エミリーがルークの言葉をきっかけに、今までと同じようには服を選べなくなったとき、男性に阿るように猥談を許容したとき、とても悲しかった。彼女の隣にいて、そんなことはしなくていいと言ってあげたかった。エミリーが味わったあれこれを、女性なら大なり小なり経験していると思う。自分が経験したときのことを思いだして、辛くなった。

エミリーはものすごく頭のいい人なのだと思うけど、そんな人がなぜルークを選んだのかが分からなくて、ルークと恋人関係を持続させようとする動機が見えてこないのは少し不満だった。自分の昇進に嫉妬している時点で、ルークとはさっさと別れるべきだと思ったし、エミリーほどの人がルークの能力を正しく見極められていないのも謎だった。

この映画の本筋とは離れるが、仕事ができない、ということに対して、私たちはどう対処していくべきなのだろうとは改めて思った。人には向き不向きがあるし、仮にすべての仕事に対して能力を発揮できない人がいたとして、その人は排除されるべきではないし、劣っているというレッテルを張るべきでもないと思う。ここを覆すのもめちゃくちゃ難しいんだろうなと思った。
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