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ファンファーレのmanamiのレビュー・感想・評価

ファンファーレ(2023年製作の映画)
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むかしむかーし読んだ少女マンガの、うろ覚えな記憶。歌手だか役者だか忘れたけどアイドル的な人気を博して活躍している少女が、下校中の女子高生の一群をタクシー車内から見て、「私もあんなふうにキラキラしてたのかな、芸能人になるのと引き換えにああいうキラキラは置いてきちゃったな」というようなことを呟く。
そんな何気ない場面を思い出す作品でした。現在進行形のキラキラは、自分自身には見えない。見えるのは、過ぎ去った日々のキラキラか、ほかの誰かのキラキラ。焦って自分も発信してみるものの空回りしちゃってたり、仕事に打ち込もうにも自分の殻を破れなかったり。
「アイドル」はもともと「偶像」という意味で、この作品でもまさに「象徴」として据えられているけど、彼女たちの葛藤や挫折や無力感は、芸能活動でなくても何かに本気で取り組む人なら誰しもがぶつかる壁だろう。
そうは言っても彼女たちは明るい。理解も共感もできなくても、お互いへの信頼と尊敬は特別な存在感を放っている。衝突することもあるけど、輪ゴムだけであんなにも盛り上がれる関係性は、心の底から肯定してあげたい。
輪ゴム後の「初めて会ったのは10年前」って会話が思わせぶりな余韻だったから、てっきり回想シーンに入るのかと思いきや、とある人がとあるミスを叱責されるというある意味真逆のシーンに続いて、そういう心惹かれる演出がところどころに入ってる。しかも余韻がその後ちゃんと回収されるのも好き。
それと玲の考えた衣装案について、私が感じたことがそのまんまリーダーのセリフになってて、思う壺ってことじゃないかと恥ずかしくなるなんてこともあったりしつつ。
悪い人が一人も、本当に一人も出てこないのもイマっぽい。ダンスを提案するのも純粋な気持ちからで、ちゃんといい子。
スクールの社員さんも突き放してるようで、実はいい人。ついでにいい声だな誰だろうと調べたら、フツーに(笑)中島歩だった。登場するたびに薄暗いスタジオだから気付かなかったよ。
上司も冷たい人かと思いきや、やっぱりいい人。仕事してると自分を変えなきゃいけないこともある、ほんとそう、その通りよ。検索しちゃダメってあんなに強く言われたのにさっそくスマホ触ってるの可愛いし、おもしろさもありながら、「きっとあの上司のこと、もともと嫌いじゃないんだろうな」って感じさせてくれる、ここも好きなシーン。
ガタイの良さを隠しきれてないマネージャーさんは、10代前半であろう子達からも「うっちー」って呼ばれちゃってなにげにいじられキャラなのか。それにしてもあの年頃の子にチョコ禁止令はキビシイて。アイドルって大変ね。
そんな彼女たちのラスト10分は圧巻。たぶんとりたてて上手なわけではないんだろうけど、目が離せなくなる。ここで視点を変えないという演出が、本当に本当に好きだ。見せてくれなくてもちゃんと見えるもの、暗い側にいる彼女たちが。
「そらいろ」はメンバーカラーなんだろうな。そしてこの作品は横顔で始まって横顔で終わるんだけど、その表情がまるっきり違っていて、この変わりようこそが、まさにtransit。

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