垂直落下式サミング

アントニオ猪木をさがしての垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

アントニオ猪木をさがして(2023年製作の映画)
3.5
猪木とは何者か?見つけろテメーで。ばかやろう。
元気があれば何でもできる!彼の言霊の数々とその生きざまを受け止めてきたファンたちにとって、猪木とはどのような存在なのか、各々の自問自答と愛憎入り交じる感情を綴る「ピープルVSアントニオ猪木」を期待していたのだけれど、みてみたら「フォースの覚醒」だった。
故人の歩んだ道をみてきたものたち。後に続こうとするものたち。若い世代を連れだったハンソロとレイアが姿を消したルークの足跡を辿るかのごとく、ファンらが自分なりの猪木観を語る。
あまりにも、結論ありきすぎる。最初に、ブラジルのコーヒー農場跡にまで取材に行っているから期待が高まるも、取材対象は現役時代の猪木に近しく好意的な人たちばかりで、当時を知る後輩レスラーたちも少なからず猪木派の人間だからか、武勇伝と呼べるような好ましいエピソードしか出てこない。
どいつもこいつも愛に溢れすぎている。都合の悪いことを言うやつには、そもそもインタビューしてないんだろうが、人間・アントニオ猪木の実像を提示することには至っていない。最後までプロレスラーという種族のニンゲンだったということか…。
本作は、アントニオ猪木とは虚実の皮膜のなかにいる存在だとしている。であるならば、もっとたくさんの人から証言を引き出しておいて、多様な角度からスポットをあてる必要があったのではないか。
単純に取材対象が少なくて、その素材をやりくりしているような編集に貧乏臭さを感じるし、プロレス小僧の半生を描いた安っぽいドラマパートはマジで超要らない。この労力は取材と編集にあてるべきだった。
20人程度にしか取材してないのは手抜きでしょ。現役時代の写真パネルをもって街行く高校生にこの人を知ってますかと聞き「だれ?ビンタの人?へー、若ーい。」みたいな、知らない人の視点も必要だったんじゃないかな。「知ってる前提で話す」プロレスファンの悪いところモロだし。
ドキュメント映画としては、ケーブルテレビの特番でやれってなもんでお粗末な出来だったけれど、猪木問答で若手の頃はネタにされつつも有言実行でトップレスラーとなった棚橋や、最大のリスペクトを贈りつつも最後にビッグマウスをぶちかましてプロレスのエンタメ性を体現したオカダ・カズチカをみると、闘魂というフォースはパダワンたちに継承されているのだなと、込み上げてくるものはあった。
さすがのくりぃむしちゅー・有田哲平がファン代表として出てくれているし、神田伯山の「巌流島決戦」講談は一見の価値アリ。僕ら知らない世代のファンは、彼らの猪木観と同じ方向を向くことで遠いレガシーを少しだけ近くに感じることができる。
パンフレットは永久保存版。特にアントニオ猪木語録をまとめたページは圧巻で、世代じゃない人間にも訴えかけるものがある。ロック&ヒップホップスターの条件は、独自の言語体型を持っていること。ゼット世代よ。今こそ猪木をディグれ。