柊

ほかげの柊のレビュー・感想・評価

ほかげ(2023年製作の映画)
3.9
監督としての塚本晋也にはいつも敬意を表してしまう。途中から姿勢を正して椅子に座り直した。
今この時代にこの作品の上映。戦後78年を迎えて我々日本人は過去の自分の国がしてきたことをすっかり忘れてしまったように思える。そんな時代への警鐘にも感じ取れる。

そして世界には諍いが絶えない。諍いでいい思いをする人たちは決して被害を受けない。常に1番被害を受けるのは名もなき兵士と戦場での火の粉をなすすべもなく受ける残された者たち。
それが戦争のシステムなのだ。
儲かるから戦争をする。富と権力を一握りの者が独占をするこの構図。いったいいつまで続くのだろうか?
我々はいつ目を覚まし声をあげる事ができるのだろう?

もちろん声をあげている人がいる事は重々承知している。でもこの国ではその声が多数派になる事は無い。何故なんだろうか?

生き残って帰ってきた人を声高に責める気は無いが、頑なに口を閉ざす人々の心の中には何があるのか?己の行為を正当化せずには正気を保てない人達もきっと多数いたのではないだろうか?坊やが見た戦中、そしてより過酷でもある戦後の時代を生きる中で、戦争が残すあまたの傷を噛み締めていい人間になれよ!と趣里ちゃん同様願わずにはいられない。
子役ながら、終盤の目力の澄んだ輝きがとても良かった。
戦後とは理不尽に戦場で死に、引き上げてきた国により捨てられ、更には残された者の無念の果てに出来上がってきたのだと言う事を今一度考えたい。

1人を殺せば罪になるがあまたの人を殺せば英雄になるという詭弁。戦争は紛れもない人殺し。今もこの空の下で戦争は起こっている。正義の戦争など存在しないと皆がわかる日は果たしてやってくるのか?
人は生きる生物。どんな事があっても生きる強さを持っているとは思うが、自らを殺す手段を持っているのも人。生きる事が美しいものであると思えるような世界になればいいと思う。

それにしても大森立嗣、声が弟にそっくり。更に少し恰幅が良くなって、お父さんにも似てきた。DNAってすごいけど、演技は別だな。
柊