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ほかげのFAZのレビュー・感想・評価

ほかげ(2023年製作の映画)
4.0
監督が大切にしたのは、「戦争の持つ“被害の面と加害の面”を均等に描く」ということ。

「戦争で被害者になる恐怖は、耐えがたいものでしょう。
ただ、一方で忘れがちなのは人を殺してしまうことの恐ろしさだと思うんです」
と監督がインタビューで語っていたように、まさに戦争は被害だけではなく、加害者に変えてしまう恐怖だと感じる映画だった。

人を殺すなんて、自分はするはずがないと思っていても、殺さなければ自分が殺されてしまうかもしれないという戦争では、そんな常識を失わせ、簡単に人殺しをさせてしまう。
そしてそれをしてしまった人間は、命は助かったとしても、心は殺されてしまうのだ。

戦後の闇市や帰還兵、戦争孤児、娼婦、戦争が終わったとしてもそこから這い上がることがいかに大変か、生きることがどれだけ大変かを描いている。
玉音放送後は「はい、ここからは戦争が終わって平和になります」なんて簡単な話ではなくて、一度戦争を体験してしまった人は、一生その経験がついて回るし、戦時中にした自分の行いに苦しむのだ。戦争の恐ろしさは渦中だけではなく、一生なんだと改めて気付かされた。

戦争被害の悲惨さを描く作品はたくさんあるし、自己犠牲の美みたいなのを描く作品もあるけれど、PTSDに苦しむ帰還兵や、家族を失いひとりで生きていかなければならなくなった戦後女性を、ここまで丁寧に書いた作品を見たのは初めてだったので、衝撃が大きかった。

趣里さんや森山未來さんをはじめ、役者さんの迫真の演技は恐怖すら感じたし、7才でこの難役を演じた坊やには脱帽した。

平和の祈りが込められた映画から、反戦への思いが一層強くなった。
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