このレビューはネタバレを含みます
双子姉妹に見えてくるほどニコイチなジュリエットとリリアーヌが、一人の男を巡って嫉妬し合い、関係性のバランスさえ崩していくのに、始まりも終わりも軽いのがめちゃくちゃ良い。
それはひとときの夢の時間のようで、本作をヴァカンス映画たらしめてるのは、この軽さなんだろうなと。
でも軽さの裏側に、
「あと僅かで徴兵でアルジェリアに向かわなくてはならない」
という、重い現実がミシェルにのしかかっていることを忘れては、物語の本質を見誤ってしまう。
フランスから次々にアフリカ諸国が独立を果たした「アフリカの年」と呼ばれる1960年あたりが時代背景。
そんな切迫した状況で戦地に向かうことが決まっているミシェルの立場で考えれば、彼が恋にも仕事にも本気になれないことや、家に金を入れずに車を買ってしまうことに対して、理解ができてしまうわけですよ。
自分を巡って喧嘩していたのにあっさり笑い合う後部座席のジュリエットとリリアーヌに
「もっと大事なことがあるんだ!」
と叫んだミシェル。
軽さを纏って現実から逃れていた彼の本音の部分が見えた瞬間でしたね。
マッチポンプなことは自覚してるでしょうけど、
「君らと違って、恋なんかにうつつを抜かしてる場合じゃないんだ!」
とでも言いたげだったもんな。
怒られた二人は、彼の切実さを芯から理解してないからポカーンてな感じでしたがw
兵役から帰ってきたデデが食卓で何も語らなかった理由に思いを巡らせれば、その答えはすぐに見つかります。
戦地に向かう者とそうでない者。
あっち側とこっち側。
ラストシーンで陸地から無邪気に帽子を振る二人の女の子と船に乗る青年との間を隔てる海が、互いに理解し得ない壁のように感じました。
この作品自体はヴァカンス映画として成り立っているけれど、戦争映画を観た後の感覚も残る。
なかなか話が終わらない芸風は、長編デビュー作にして既に確立されているロジエ監督ですがw、
一人の青年のどこにもぶつけようのない想いを、気楽なヴァカンスで包み込んでしまうバランスは見事ですよね。