ビンさん

市子のビンさんのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
4.0
ちょうど昨年の今頃、深い感銘を受けた『散歩時間〜その日を待ちながら〜』の戸田彬弘監督の最新作。

舞台は大阪は東大阪市。
長谷川(若葉竜也)は、3年同棲している市子(杉咲花)に結婚を切り出す。
涙を流し喜ぶ市子。
しかし、その日を境に市子は長谷川の前から姿を消す。

映画は失踪した市子の行方を探す長谷川と、とある事件に関わっていることで市子の行方を追っている刑事(宇野祥平)が、彼女のことを調べていくことで、市子という人物の実態が浮かび上がってくるというヒューマン・サスペンスといった内容。

とにかくオープニングの生駒山中から白骨死体が発見云々というシークエンスから引き込まれる。
なんせ、鑑賞していたシネ・リーブル梅田のある梅田新シティの展望台からも生駒山が見えるくらいの、とても近い距離感。
加えて、市子を演じる杉咲花の、たとえ朝ドラ『おちょやん』で特訓したとはいえ、ネイティブかと思わせるくらいの自然な関西弁は、とりわけ関西在住の観客にはダイレクトに突き刺さったはずだ。

長谷川と後藤刑事の行脚は、これまで市子に関わった多くの人物の証言で、彼女がどのような人生を歩んできたのかが浮き彫りになってくるが、それでも捉えどころのない、ある種ファム・ファタールともいうべき市子というキャラクターの深遠さ。
それを見事に体現した杉咲花という俳優の演技と、戸田監督の演出には逐一感嘆のため息を漏らすほどだった。

また、本作は監督が主宰される劇団の旗揚げ公演作品が原作とのこと。
おそらく原典となった舞台をご覧になっている向きには、僕が抱いた以上の感銘を受けておられることだろう。

演者で言えば、長谷川を演じる若葉竜也、後藤刑事を演じる宇野祥平、さらに市子の過去に関わる中田青渚、中村ゆり、石川瑠華、森永悠希といった俳優は個人的にも以前から好きな方々で、これほどまでに大挙として出演されているというだけでも、僕にとっては至高の時間を送る事ができたし、間違いなく各俳優の代表作になったと信じる。

とりわけ、森永悠希、そして、途中で登場する飯島順子のお二人は、僕も撮影に参加させていただいた『天使のいる図書館』組でもあったので嬉しいかぎりだった。

深い余韻を残す本作。
観終わってすぐに、もう一度観たいと思わせる、熱くて深くて痛い、心に体に突き刺さる秀作だ。必見!
ビンさん

ビンさん