つかれぐま

市子のつかれぐまのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
4.0
23/12/20@UPLINK吉祥寺❶

No time to cry.

日本映画の感動作とは異なる文法。ポン・ジュノら韓国映画のそれに近いかも。気がづけば思わぬ別ジャンルに連れて行かれ「どういう気持ちになれと?」。泣いている場合じゃない、今年の邦画ベスト。

オリジナルは舞台劇。
そして同じ劇作家による映画化ということで「映画的」面白さはどうかな?と訝しんでいたのが恥ずかしい。

埠頭で合流した3人は何を話したのか?
長谷川はなぜ刑事の電話に出なかった?
ラストとエンドロールの意味は?
余白をたっぷりと取ってくれたお陰で、一夜明けても反芻して味わえる。

自分は男性なので、長谷川と北という「市子を愛した」2人に感情移入して観ていたが、終盤はもう感情がぐしゃぐしゃになった。北と食べたアイス。長谷川と食べた焼きそばとシチュー。あれは何だったんだろうかという徒労感。それもこれも市子を演じた杉咲花の演技力。その市子をなんらかの既成の言葉では呼びたくない。

長谷川役の若葉竜也は、
”この映画を軽薄に人間をカテゴライズして「わかっている」と安心したがる人に観て欲しいです”と語っているが、我が意を得たり。市子が体現したのはインヴィジブルな「闇」。そこに長谷川や北の愛は届かない。「ファムファタールと翻弄された男の話」とカテゴライズした某ラジオパーソナリティー(宇多丸さんではない)には正直反感が。

戸田監督は、
”僕が少年期に生きた1990年代。大人になった今振り返ると、少年時代には気づけなかった闇が近くにあったように思います”と語る。そんな闇が団地の一室に今もあるのだろう。