ゆき

市子のゆきのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
4.2
ただの恋人

幸せな時間もあったんです。それだから存在を0にするにする必要も発生する。
彼女との過去の回想シーンは汗ばむ夏ばかり。証言を繋げながら、1人の女性の人生を追う125分。

一定のトーンで展開する物語。その中で熱量の上がるシーンは観客の感情も波立たせる気迫だった。

男女として人として積み上げた会話と時間に相反して、相手のことを知らないと気付かされる現実。証言者から伝わる恋人の印象は自分の知らぬ女性で。
彼女は言える相手ではなく、言ってしまって良い相手を頼っていく。そして好きなものを見つけて、夢を見つけて生きる意味を掴んでいく。

戻りたいのはいつなんだろう、どこなんだろう。
例え悪魔と言われようと、生きる術を使うしかない人たちそれぞれの人生を観た。

叶えられなかった約束たちが散っていくのはとてもしんどすぎたし、作り込まれた映像の刹那感がより感情を湧き立ててきて、ここまで没頭させてくれる作品に触れられたことに感謝したい。演劇だとどんな受け取り方になるのか、2月の演目で体感したい。
***
彼女と暮らして3年、プロポーズをした。翌日恋人は行方をくらませる。明けっぱなしの窓とベランダに残された荷物。彼は彼女の人生を目の当たりにすることになる。
ゆき

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