マインド亀

市子のマインド亀のレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
4.5
一人の女性の失踪を巡る、悲しき『名前』の物語

●何を語ってもネタバレ注意なので多くは語れません。
状況としては、昨年の石川慶監督作品『ある男』や、片山慎三監督作品『さがす』などの傑作ミステリー映画に近いのかもしれません。本作は日本の制度からこぼれ落ちてしまった人のとても怖い怖い、悲しい作品なのです。
市子という謎の多い一人の女性の歩んできたとても重い人生を、杉咲花が完璧に演じるのですが、彼女にプロポーズをする彼氏役に若葉竜也。おちょやんコンビなんですね。しかしながら杉咲花はおちょやんの人と同一人物が演じているとは思えないくらい真逆の役を見事に演じきっています。

●市子の人生はめちゃくちゃ重くて可愛そうなのですが、だからといって彼女が犯してきたことのすべてを肯定する作品では無いと思っています。私の見解では、先天的か後天的のどちらがで、市子のサイコパス味も描かれていると思うんですね。彼女のかわいそうな境遇がそうさせたのかもしれませんが、平気で人に嘘を付く、人を利用する、人を殺める、そういう、サバイブしていくために必要に迫られた時に発揮するサイコパスな側面がしっかり描かれている。同情してしまうのに、怖い。絶妙なバランスのチューニングだと思います。
そんな中で、彼女が見た2つの小さな夢。それらは実現する直前に脆くも崩れ去ってしまうのです。それを思うと辛くて辛くて仕方がありません。
彼女の「美しさ」は生き延びるための手段にもなるし、自分に向けられた刃にもなってしまう。特に男に惚れられやすいからこその、男性側の『僕しか君を守れないんだ!』とか『お前達親娘は悪魔だ!』などの勝手な押し付けが彼女を苦しめるのです。悲しきファム・ファタールの人生がどうなってしまうのか。それが気になって頭から離れない、とても辛くて美しい作品だと思いました。絶対に今年見たほうがいい邦画だと思います。多くは語れませんが、是非観てください!
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