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市子のdaiyuukiのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
5.0
3年間一緒に暮らしてきた恋人・長谷川義則(若葉竜也)からプロポーズを受けた翌日に、突然失踪した川辺市子(杉咲花)。
途方に暮れる長谷川のもとに、市子を捜しているという刑事・後藤(宇野祥平)が現れる。
後藤は、長谷川の目の前に市子の写真を差し出し「この女性は誰なのでしょうか」と尋ねるのだった……。
市子の行方を追い、新聞配達員の寮で親しくしていた彼女の昔の友人の吉田キキ(中田青渚)や幼馴染のさつき(大浦千佳)、市子に片想いしていた高校時代の同級生の北秀和(森永悠希)など、これまで市子と関わりのあった人々から証言を得る後藤と長谷川だったが、かつて市子が違う名を名乗っていたことが判明。
そんななか、部屋で一枚の写真を発見し、その裏に書かれた住所を訪ねた長谷川は、市子の母のなつみ(中村ゆり)に会い市子が生きてきた壮絶な過去と真実を知ることになる……。
戸田彬弘率いる劇団チーズtheaterの舞台『川辺市子のために』を原作に、戸田自ら監督し映画化。

恋人のプロポーズの後で失踪した川辺市子。
市子を探す義則や市子の幼馴染のさつきや高校の時から市子に片想いしている秀和や新聞配達員の寮で市子の親友だった吉田キキ、それぞれの目線から語られる川辺市子像が次第にひとつになっていく時に見えたのは、壮絶な過去と罪を抱えてただ「普通の幸せ」が欲しかったひとりの女の姿。
生まれ育ちの違いや法律の隙間や関わった人の違いで、闇に堕ちてしまう社会の不条理から抜け出せない川辺市子の絶望と「普通の幸せ」を求めて足掻く切実な生き様の哀しさが、杉咲花のリアリティに乗っ取った演技によって観る者に伝わって、切なく心揺さぶられた。
市子と関わる男たちを演じる森永悠希や渡辺大知の演技もいいけど、やはり市子を追う中で市子の壮絶な過去を知りながらも市子を救おうと市子を追う恋人の義則を演じた若葉竜也の複雑な内面を含んだ演技が見応えあって、市子がキキに言った「ウチは夢なんか見たらあかんねん」などの意味が次第に明かされるサスペンスミステリーも見応えがあって、切ないけど力強いヒューマンサスペンス映画。
「ウチは、ただ普通の幸せが欲しかっただけや」
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