YAJ

市子のYAJのネタバレレビュー・内容・結末

市子(2023年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

アイデンティティにまつわるお話。というか、戸籍を偽り生きる市子の生い立ちのすさまじさを辿る。素性はいったい?!というサスペンス仕立てで、少し前にネット鑑賞した『ある男』(2022)に似た手触りがある。

 戸籍を持たない、あるいは忘れたい過去があり戸籍を変えたり(もちろん違法)、人にはぞれぞれ哀しい事情があることが浮かび上がる両作品。個人を責めるより、そうした人を生み出す社会への問題提起を孕む作品と理解した。

 市子を演じた杉咲花の演技がお見事。関西弁の使い分けも微に入り細をうがつ。外向きに発する「うち」と、内面に向けた「うち」を、イントネーションで使い分けていたという。すごいなー。
 一方、『ある男』のキーパーソンのひとり、戸籍仲介人を演じた柄本明の関西弁も見事。ところどころ関西人らしからぬイントネーションが散見され、「あれ?ベテラン俳優にしては詰めが甘いな」と思ったが、これは敢えてだろうなと、あとから思い直した。なぜなら彼自身が出自を偽っている可能性があるからだ(劇中、それは明らかにはされないが)。関東人が関西弁を真似るときの微妙な言葉遣いを意図的に操っていたのだろう。これ、関西人しか気づけないと思うが、さすが藤原道長の父😁

 『ある男』は小説で先に読んでいる(平野啓一郎著)。このイントネーションの差異などは、実写化されてこその演出だろうから、映画化されることで味わえる面白みもある、と得心。
YAJ

YAJ