くりふ

陽炎座 4Kデジタル完全修復版のくりふのレビュー・感想・評価

3.0
【駄菓心中】

前作『ツィゴイネルワイゼン』がウケたので、ノリノリで作ったことはよくわかりました。

が、私は前作ほど没入できず。シラフのほろ酔いだったのが、今度は初めから千鳥足。日常という立ち位置を忘れ、端から迷宮に引きずり込もうとする。

豊穣な迷宮なら喜んで、迷い酔うが、節々で外したキッチュに転ぶから冷めてしまう。

キッチュ代表は、ロシア女(ぷぷぷ)に扮する楠田枝里子。明らかに間違った選択だと思う。

三角関係に、松田優作演じる主人公が巻き込まれ、心中という罠も潜む四角関係に拗れてゆく…のが物語の骨格。でもこの骨組みが脆くて、どうにも浮かび立ってこない。

とはいえまず、大楠道代は素晴らしい!静かな情念と崩れ美。前作の大谷直子に匹敵するジャポネズ・ファム・ファタール。洗い髪のエロスは本作イチの眩しさ!それでいて、伊藤晴雨の責め絵に描かれそうな、被虐の予感を湛えている。

偶然か、『北斎漫画』と同年公開だったのね。アチラの“蛸と海女”も話題になったが、洗い髪の方がエロス勝ちでしょう!逆に、ほおずきエロスは樋口可南子に負けちゃったね。

中村嘉葎雄は凡庸だが、“末路”でのギャップから、大仕事を遂げたように見えて得してる。

松田優作はガイド役だからなあ…。あまりよいとは思えなかったが“事後”の崩れ方は巧い。

…で、この四角の一角を担うのが、役者でない楠田枝里子ってムリでしょ。狙いは役柄が人形のような女、だから?でもこの役は、人形のような存在感や演技ができる女であって、本当に人形みたいなブツを置いたら、四角関係は成り立たないでしょう。

骨格のさらに骨格を絞ると、女2人の熾烈な愛憎対立なのだから、この楠田:大楠で0:100に見えちゃう構図では、まるで響きません。

まぁそもそも、ここでいう女の愛憎や情念とは、男による搾取や抑圧から生まれたもの。いわばクーデターなのに、男視点だからそうは描かない。今ではこれだと欺瞞でしょう。

また、本作は陽炎座以外にも泉鏡花をふんだんに引用しているそうで、鏡花カタログとしては大層充実しているらしい…が。それで物語が強化されるわけでもなく、散漫になっているかと。泉鏡花以外の引用もあるそうだが、せめて鏡花推しの一択にすべきだったのではと。

物語の要である心中を、美学に仕立てて酔わないのは矜持、だとは思った。とはいえ要である心中をどう解釈したのか、よくわからないけれど。

画面で絡んでも、結局はこの男女四人ってバラバラなのね。心中を通じて無理やり、物語に結びつきの既成事実を残したような。その素っ気なさが面白さ、なのかもしれないが。

総合的では感心できなかったが、大楠エロスが堪能できたコトは、劇場の体験でよかった。人により、価値的なのかは変わりますが、中身がみっしり詰まった映画ではありますね。

<2023.12.16記>
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