りっく

アキレスと亀のりっくのレビュー・感想・評価

アキレスと亀(2008年製作の映画)
3.5
誰も理解してくれない孤独な男の元に唯一現れた女性。ラストで「芸術品」としてのコーラの缶を川に蹴り飛ばす音がいい。あの「カンカララン」という音と共に、呪縛から解放されてほしいと心底思う。それほどあの男の人生に共感してしまった。

無邪気に「画」を愛していたあの頃。常識を学び、それを破壊し、新たなものを創造したいと思っていたあの頃。人のものばかり模倣し、やがて「画」を見失ってしまうあの頃。主人公は大人しく見えるが、心の中衝動や激情は画として外部に噴出する。そこからさらにヤケクソになり、遊戯性が増してくるのがいかにも北野武らしい。

自分の撮りたい映画を撮ってきた北野武。
やがて自分の好きだった映画自体を見失い、ドツボに嵌っていく。そんな期間に撮られた、まさに武の苦悩が手に取る様に伝わってくる作品。本作を機にその呪縛から解放され、エンタメに振り切った「アウトレイジ」を次作に選んだのも偶然ではないように思えてくる。
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