アキレスと亀、無限と収束を逆手にとったバラドックス。求めていたものは近いようで遠く、またその逆も然り。
芸術に人生を支えられ、その道を歩くことでしか生きられない男と支える女。アキレスであった武にとって亀とは芸術だったのか、否それは彼の中に空いた空虚を埋めてくれる理解者だった。という話。
主人公は三つの時代(少年、青年、中年)を通して描かれる。どの時代でも言える彼の性質は人に流されやすい性格であるということ、そして芸術への依存をしていること。いわゆる狂気の芸術家とは少し違う。言われたことをそのままやってしまう、純真さのある子供のようにも見える。
本作はやはり「TAKESHIS’」と「監督、万歳」で迷走した武監督と映画との繋がりへの答えなのだと思う。世間の目に晒される芸術を本当の意味で左右されずに描くことは難しい。意識するほどに意識してしまうことなのだ。
だがそれらのジレンマに対して、武なりの答えが「それすらも芸術に昇華してしまうこと」なのだと思う。どこまでも芸術に生きたその考えはどう考えても似てない中年編を武が演じる理由でもあるのだろう。
ここにきてしっかりとした武映画を見た。