【バートンマン/伝えたいこと】
バートンマンは嘘をつく。
ただ、この映画「ホールドオーバーズ」の伝えたい事は、当然そんなことではない。
この作品は一般的に考えられているより強いメッセージを含んでいる気がする。
2018年、アメリカ・フロリダ州の高校で銃乱射事件が発生し多くの命が失われた際、高校生が中心となって銃規制を呼びかけるウォークアウトが行なわれた。多くの大人も参加し、一説には全米で100万人動員されたらしい。
この時、アメリカ人の若者のエネルギーを羨ましく感じた。
しかし、現在、アメリカの大学教育は揺れに揺れている。
連邦裁判所が、大学がマイノリティを優遇するのは違憲と判断したり、大学生のイスラエルのガザ地区への過剰な殺戮攻撃を止めるよう呼びかける抗議活動を大学側が禁止したりしているのだ。
背景には、白人至上主義が強い共和党保守の主張や、ユダヤ人組織との関係から距離を置くことが出来ない大企業が大学への寄付の減額をちらつかせるなどしていることなどがある。
これはバカな政治や大人の問題だ。
この「ホールドオーバーズ」の物語は1970年代初頭のものだが、時代は公民権運動、女性解放運動を経て、ベトナム敗戦が色濃くなった頃だ。
(以下ネタバレ)
一見裕福でも家族のことで苦悩する若者。
タリーは単に優しいだけだろう。
公民権運動でより広い権利が認められたが、貧しさに大きな変化はなく、メアリーの子供は利発にもかかわらず大学には行けず、ベトナム戦争に従軍し命を落としてしまう。
女性解放運動が進み、ベトナム戦争の敗戦が色濃くなっても、”男の子はかくあるべき”といったステレオタイプな考えから抜け出せないタリーの母親と再婚相手。
陸軍学校がタリーや新しい世界のソリューションであるはずがない。
ハナムは知っていたのだ。
若者に重要なのは教育なのだと。
だから嫌われても厳しく接していたのだ。
そして、若者が学ぶべきは陸軍学校などではなく、アカデミックな教育機関であるべきだと。
だから、自ら身を引いてでもタリーの学ぶ場を確保するのだと自身で決めたのだ。
僅か2週間の間で、対立しながらも理解を相互に深めることが出来たことは、なにものにも変え難い大切なものだろう。
血の繋がりや、人種などありきたりの関係性ではないもの。
この「ホールドオーバーズ」の物語は静かに展開するが、その大切さを見直すことによって、現在のアメリカを蝕む得体の知れないものに対して断固たる強いメッセージ発しているのだと僕は思う。