ShinMakita

ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディのShinMakitaのレビュー・感想・評価

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☆俺基準スコア:3.1
☆Filmarks基準スコア:4.1




1970年、冬…

ボストン近郊にある私立寄宿学校バートン校は2週間のクリスマス休暇を迎えようとしていた。自宅に帰ることができない生徒たちを監督することを命じられたのは厳格過ぎる歴史教師のポール・ハナム。彼は残った生徒たちに規律ある日々を過ごすよう指示するが、問題児のタリーやクンツらは反抗的だ。数日後、居残り生徒の1人スミスの父親が現れ、生徒たちを引き受けスキー旅行に連れていくことになった。しかし両親と連絡がつかないタリーだけは参加が許されず、結局残りの休暇をハナムとタリー、そして厨房係のおばさんメアリーの3人だけで過ごすことに…


「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」


以下、「バートン男子はネタバレしない」


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ソリが合わない教師と生徒が絆を育む話…と言ってしまうと、定番フォーマット化された学園モノのように思われそうなんだけど、そうじゃないのがこの映画。「スクールウォーズ」の熱さもなければ「いまを生きる」のウェットさも無いし、教師(ハナム)も生徒(タリー)も、映画の前半のうちは共感しがたい人間として描かれています。家族という存在の厄介さ、戦争という背景の黒い影、思春期の孤独など普遍的なテーマもたくさん内包していて、ジャンル分けが困難で語るのが難しい映画でもあります。しかし、無理やりに一言で本作を表すのなら、それはズバリ「温故知新」なんだよな。

時代が1970年ということで、映画好きがまず注目するのは時代再現度。セットやクルマ、音楽、フィルムの質感など再現度が高い映画は数々あれど、製作会社のロゴと、それが画面に出る時のブツブツという雑音、タイトル・スタッフロールの出方とレタリングが完璧に70年代というのにまずニヤリ。ミラマックスの古いロゴなんて初めて観たよ(あれは本物かフェイクかわからないけど)^_^
ただここまでの再現は、実はタランティーノが「グラインドハウス」でやってるから新しくはないけど、カメラの構図まで70年代っぽいのには狂気に近いこだわりを感じました。向こうから歩いてくる人間を引きで捉えてズームイン、消えたタリーを探すハナムが外に向かって叫ぶところでズームアウトなど、懐かし過ぎる画の構築が映画ファンのツボをくすぐります。いろんなシーンで昔のいろんな映画を思い出すんですよ。僕は、ボストンとニューヨークと場所は違えど、アイススケートのシーンなんかは「ある愛の詩」なんかを思い出しました。ちなみに劇中に登場するネイティブ・アメリカンの映画はダスティン・ホフマンの「小さな巨人」。温故知新とはちょっと違うけど、アイデンティティの揺らぎという意味では本作と繋がる部分もありますよね。

これまで観てきたペイン監督の映画は「家族」と「旅」の話ばかりでした。本作も家族…擬似家族の話でしたね。メアリーに母らしい強さと優しさを見いだせるし、タリーとハナムに父・息子関係を認めるのはわかりやすいところ。この2人の拗らせ方が本当にそっくりで、皮肉屋・嫌われ者・自分のことにはルーズ…と似てるとこ挙げたらキリが無い。タリーはハナムの過去であり、ハナムはタリーの未来なんですね。進む道は違うだろうけど、人間性は変わらないんだろうな。クンツに黒パンツを冷やかされたタリーが「女王陛下の007でボンドが履いた海パンだ」と言いかえすけど、あれって海のシーンは序盤だけでボンドが泳ぐシーンはなかったはず。アルプス舞台だし。よどみない嘘つきぶりは、実はハナムも同様というのが後にわかりますよね。映画冒頭、クンツにタバコを盗んだと咎められるタリーで始まり、校長室からアレをくすねてくるハナムで終わるという構成の妙に感心しつつ、やっぱこの2人そっくりだなと笑ってしまうのです。

爆笑もなければ号泣もなく、フラットな感情のまま幕を閉じる映画なんだけど、観終わってから何か小さな感動が込み上げてくる「快」作。これが作品賞オスカーでも全く不思議じゃなかった良作です。ぜひぜひ!
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