この作品は、6月の試写会を仕事の都合で欠席してしまい、ずっと悔んでいましたが、年末のこの時期に観られてちょうどよかったです。だだっ広い施設で積雪の冬季に留守番させられる設定は、なんとなくスタンリー・キューブリック監督の「シャイニング」を連想しましたが、そんな雰囲気はまるでない感動的な人間ドラマでした。
正直なところ、こういうタイプの物語は好きではないので、大絶賛する感想が多いようですが、そこまでの共感はありません。ただ、映画としてのクオリティは相当なもので、かなり緻密な脚本と丁寧な演出は、とても充実した133分を提供してくれます。
主な3人の登場人物は、表面的には偏屈で意地悪な言動ばかりですが、その背景に彼ら彼女らの過去や現在の辛い境遇がありました。それが1つの大きなものもあれば、小さなものが積もっていることもあります。物語の過程でそれらが1つずつ判明しますが、そのエピソードと同時に3人の心情が柔らかいものに変化していくシンクロが絶妙です。もともと人間関係で傷ついた経験があるので、他者と新しい関係を構築することに臆病になっていたのでしょう。その相手が自分に似た境遇にあるとわかれば、自然と共感が芽生えていくというベタな設定ですが、それがわざとらしくなく表現されているので、とても好印象です。
舞台が名門の男子高校ということも効果的で、前半に登場する生徒たちの“罵りあい”のようなやりとりは、“ともに学びあい、ともに成長していく”という学校の普遍的な理念からかけ離れています。そういう特殊な環境では3人の偏屈な性格も通用してしまったのかもしれません。そこから3人きりになってしまったので…、という展開がわかりやすいです。
メアリーの息子がこの名門高校を卒業したにもかからず、すぐにベトナム戦争に徴兵され、そこで亡くなってしまったという設定でした。彼がアフリカ系で高等教育のための学費を工面できず、帰還後の奨学制度を期待していたというエピソードが悲痛です。彼は18歳か19歳で戦死していますが、この場面で1985年にPaul Hardcastleというミュージシャンがヒットさせた“19”という楽曲を思いだしました。ベトナム戦争のアメリカ人兵士の平均年齢が19歳だったことと彼らのPTSDをテーマにニュースのナレーションと帰還兵の証言などの音声をサンプリングしたテクノファンクですが、自分が中学生のときにラジオで聴いただけなのに、ずっと脳裏から離れません。
1970年の楽曲を中心にしたBGMも話題ですが、個人的には当時のフォークやポップソングがほとんどわかりません。ただ、新年の授業が再開されたタイミングで使用されたThe Allman Brothers Bandの“In Memory of Elizabeth Reed”が意外すぎて、このシーンの登場人物の会話をほとんど憶えていません。2つのギターパートをコピーした30年以上前から何回聴いたかわからない超名曲ですが、まさか映画に使用されることがあるなんて…。ちょっと鳥肌ものでした(ちなみに、「At Fillmore East」に収録されたライブバージョンが奇跡的な名演です)。
映画よりも音楽ネタの感想になってしまいましたが、2023年に1970年のクリスマスシーズンを描くことの意義は他にもあったんだろうと思わせる地味な秀作でした。