スローモーション男

青春ジャック止められるか、俺たちを2のスローモーション男のレビュー・感想・評価

5.0
 若松孝二と映画で世界を変えようとした人々を描いた『止められるか、俺たちを』の続編。

 今回は若松孝二が名古屋で自分の映画を上映する映画館シネマスコーレを作る話とそこに導かれた若き頃の井上淳一の物語。

 僕はシネマスコーレの常連なのでこの映画公開を待ち遠しかったのです!もちろんシネマスコーレで観ました。

 前作は1970年代の学生運動血気盛んな時代の若松プロダクションの話でしたが、こちらは1980年代レンタルビデオの時代、アダルトビデオの到来と共に映画館もピンク映画も斜陽になっていくなかでシネマスコーレにどれだけ人を呼び込むのかを模索する。東出昌大演じる木全さんは現支配人。彼が話すピンク映画や8mmの自主映画出身の作家たちがいつか日本の映画界を担うかもしれないというのは本当に起こりましたね。滝田洋二郎や大森一樹、石井聰互に金子修介、黒沢清、周防正行。

 それから若松映画に見出だされた井上淳一監督自身の若き頃の物語でもある。彼の金持ち育ちでバブルの雰囲気に飲み込まれた何もすることがない無気力な若者像は今の我々20代のほうが多いような気がします。だからこそ若松監督の言う 「自分の中にある物をドバッと出さなきゃ。映画は心なんだよ 殺す側の痛みも撮さなきゃ。」という言葉が染みます。
 井上淳一は河合塾の宣伝映画を撮ることになるのだが…。

 正直、製作費が全然出なかったんだなと思うくらい、現代の建物や衣装が出てきてこれ1980年代じゃないよね?と思うシーンがいくつもありました…。しょうがないですね…。
 でも1作目より断然好きですね。こっちのが地味だけど、だからこそ映画愛が宿ってる。特に井上監督のあまり前に出ない顕著さが如実に出てるし、ふとした瞬間にこちら観客にも響くんです。
 井浦新をはじめ、東出昌大、芋生悠、杉田雷麟、コムアイ、田口トモロヲ、田中麗奈、竹中直人などなども素晴らしい。

 最後はこれからの旅立ちが描かれます。シネマスコーレはミニシアター・ブームの元祖と言えるくらい単館の劇場としては映画ファンに支えられ、井上監督はこの映画を撮れた。でも若松孝二監督はもうこの世にはいない…。そんな追悼が描かれる。

 僕も映画を作る身として、心を感情を描くことを重点に置くことこそ素晴らしいと思います。あとはヒットさせなきゃですけど。

 良い映画でした。そしてシネマスコーレも頑張って!

エンディング主題歌めちゃくちゃ良い
https://youtu.be/i8OaekFVHNA?si=zbjZRrEp056y5x3I