Masato

フローラとマックスのMasatoのレビュー・感想・評価

フローラとマックス(2023年製作の映画)
3.9

Music changes everything .

ジョン・カーニー監督最新作。AppleTVオリジナル。

ザッツ・ジョン・カーニーな映画。これまでと同じくアイルランドのダブリンが舞台の音楽ドラマ。作風としてはかなりミニマムで初期のOnceに近いインディーズ映画感。これまでの監督作と同じく「音楽が人生に及ぼす力」というものを描いていて、監督の音楽に対する並々ならぬ信仰心が伺える物語となっていた。音楽という宗教の布教映画みたいな作品。

主人公のフローラは若いときに子どもを生んで20代を育児に追われてまともに自分を追えず、息子が思春期になった現在でもそのヤケで夫とは別居してるわ、バーでセフレ探ししてるわ、おまけに言葉遣いが酷すぎるというトリプル役満のダメ親。そのせいで息子も非行に走りまくりで最悪。というドン底から始まる。

そんな最悪に舞い込んできたのが捨てられたギター。このギターが息子との架け橋となり、遠く離れた人と結ばれ、どん底からの助け舟となる。凄く良いのが、終始環境も状況もまるで変わっていないこと。なのに、殺伐としていたような街並みが音楽一つだけでカラフルに色づいたような感覚になる。それを映像表現ではなく、主人公たちの感情表現によって表現されているということ。成功したか失敗したかではなく、人はどう生きるかというところにフォーカスを当てている。

そして音楽というものが様々な表現になるということを描いている。ただのズーム越しのレッスンだったはずが、お互いに曲を披露し合うことで、それが人生についての対話になっていたり、愛情表現、ロマンスの表現になっていたり、なかなか話せない自分の思っている感情を丸裸にして吐露させてくれるものになっていたり。言葉にメロディを乗せたものが歌なんだから当然といえばそうなんだけど、会話ではなかなか言えないことを後押ししてくれるのが音楽なんだと描いている。

これはもう登場する人間のドラマではなくて、音楽が主人公の音楽についての映画だと思ったほうが良いんじゃないかってくらい。人間ドラマよりも音楽についてのほうが圧倒的に濃い映画だった。フローラが結構荒くれなので好みが分かれそう。Begin AgainやSing Streetほどドラマチックではないが良い映画。

ダブリンの青少年の犯罪についてもちょっと描かれていたが、実際にダブリンの青少年犯罪は多いのだろうか。連絡制度や矯正施設が強調されて描かれていた。アイルランドは治安が良いと聞くけど。本作はそうした荒れた子どもたちへの「音楽」というプレゼントでもあるように感じた。

音楽についてはいつものジョン・カーニー節のソング。いい曲。
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