シバザキ

悪は存在しないのシバザキのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.2
 オスカーで国際長編映画賞を撮った日本人監督の最新作がミニシアター限定公開なのも”いかにも”ですねぇ。最初は執拗な長回しとを使ったありがちな話になんのか?と疑心暗鬼になりましたが、それでも監督の実力を見せつけられてしまう高品質な作品になっていたと思います。

 自然豊かな田舎と、そこに娯楽施設を誘致しようとする都会の奴ら、みたいな構図は別に珍しくもないと思うんですけど、今作はそれをキマったショットと細かな人間描写で高尚なものにしている気概が感じられてよい。日本の田舎をこんなにも見ごたえのある風に撮っている映画も久しぶりに観た気がします。北欧のアート映画に並ぶくらいの自然描写。『ドライブ・マイ・カー』のときも思ったけど、もう人が仲良く会話しているだけで感動させられてしまう会話術の方程式でも見つけているのか。人とのやり取りの描写がかなり優れている。誰もが褒めているように、東京から来た二人の社内の会話シーンは100点。正直田舎の自然を見ているときよりもそっちの方を長く見たかった。そういう都会側の人間の事情とか視点を入れてきて単なる二項対立にならないようにしているのはタイトルにもある通り。

 演出の部分も独特で、最初こそはなんか全員が不気味なトーンで喋っていて気持ち悪いななんて思いましたが、それも15分も見ていればなんか癖になってしまう。こういうとこにまんまとハマってしまうところにある種の悔しさすら感じる。劇伴を途中でブツ切りにしたり、車の前ではなく後ろから見た景色を映すところや、光と木々を利用したアーティスティックな映し方などやっぱりどれもが一級品なんですよ。こういう才能が大衆娯楽映画を撮ってくれたらすごいことになるなと思いつつも、それはおそらく実現しないでしょう。

 そういったいろいろな要素のほとんどが優れていることは疑いようがないけど、それ故に本作のメインとなる田舎の主人公と幼い少女の交流みたいな要素にそれほど魅力を感じれなかった。そういう原初的な交流夜よりも、熟成した大人同士の交流描写のほうが格段に面白かったゆえに、映画の最初と最後となる子供とのあれこれにそんなにノレなかった。映画のラストもいろんな解釈があることは承知の上で「意味わからん」と言わせていただく。ラストカットもあからさまにオープニングとの対比だから「あ、これこのまま終わるんだな」と予想がついてしまったのもあって、やるならやるでもっと驚かせてほしかった。

 ミニシアターでしかやっていないけど日本の田舎の自然描写がことごとくキマっているので大スクリーンで見たい作品でもあった。この空気感が好きな人は結構ハマると思います。ただの自然第一主義かつ田舎最高!都会最低!みたいな安直な話でもないので隙が無くて高評価も頷ける。
 濱口竜介は映画撮るのがハチャメチャにうまいけど、それ故に見てるこっちがなんか落ち込んでしまうな。
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