濱口マジックは健在。というより、さらに一歩踏み出している。音楽が素晴らしく、長野の森を舞台にしたことでドキュメンタリーのようでありながら神秘的。ラストシーンでは、まるでタルコフスキー作品のような幻想空間が映し出される。
長く美しいプロローグを経て、プロの役者ではない主演の「棒読み」が始まった時、もうこれは間違いなく何事がが起こるという気配に、場が支配された。冒頭の水を汲むシーンはやがて反復され、その暮らしのサイクルが分かった時に、なんともいえぬ感動がある。
決して多くはない登場人物一人一人の生活をあたかもきちんと見えているように撮る手腕はいったい何事か。中盤の、開発業者による住民説明会の緊張感は言わずもがな。なのに、きちんと笑いも起きる。ハッピーアワーのあの人にも再会できるおまけつき。