ヨーサン

悪は存在しないのヨーサンのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.8
「水は川上から川下へ流れる。川上でやったことは全て川下に影響を与える」

このことが、この物語内だけでなく、家族や自治体、社会、人間関係、国、政治、至る所で起きているのだろう。

このことは、住民と会社との説明会、コンサルタントと会社のズーム会議、上司と部下の会話、タクミとハナの家族間、人間関係、あらゆるシーンで描かれる。

説明会での、「都会の人たちはここにストレスを投げ捨てに来る!」この言葉にはハッとさせられるものがあった。

また、対話についても描かれている。
住民と会社の説明会では、会話がまともにされず、ただの言葉の投げ合いであった。
しかし、その後の上司はタクミ、ひいては村に寄り添おうとしていた。
薪割りに参加するシーン、うどん屋さんでのシーンで顕著に現れていた。このような対話が、本当はなされるべきであろう。
また、この作品は人と自然との対話というのもあるかもしれない。
ハナと鹿がじっと、お互いを見つめ合うシーン、ラストのハナが鹿に歩みも寄ろうとするシーン。グランピングでの自然との調和然り。

この作品、序盤はやるせないシーンが多く見ていて辛いものがあったが、途中ドライブシーンでのくだりなど笑えるシーンもあり、作品により惹き込まれた。

ラストシーンでは、鹿の習性についての話が関係してくる。鹿は普段は臆病で人を見れば逃げるのだが、怪我をしている時は違う。
逃げれないのならと戦う態勢に入る。
ラストはまさにその時だった。鹿は子を守るために、タクミはハナを守るための行動だったのだろう。
しかし、何故タクミがタカハシを動かなくなるまで首を絞める必要があったのか。考察の余地が残る。

タクミは、単純に動かなくするのが目的だったのかも。
何か思うところがあっていっそ殺してしまおうと魔が差したのか。
その時その時で普段とは違った行動をしてしまう時があるがその1つなのかもしれない。
タクミは自分の感情を見せないキャラクターなので、答えを見つけるのは難しい。
とても緊張感のある、ハラハラする良いラストシーンだった。エンドロールでは胸の鼓動が早くなっているのを感じた。

登場する人の行動それぞれに悪は存在するのかしないのか、、
する・しないのどちらかとは言えないというのが答えなのでは??

ドライブ・マイ・カーでは、村上春樹が好きなのかなと思ったが、これを見て、それもあるが、やはり濱口監督の撮る作品が好きなんだと実感した。
全く期待を裏切らない素晴らしい監督。
ヨーサン

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