えんびふらい

悪は存在しないのえんびふらいのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
5.0
何かを得るとき、何かを失う。濱口竜介お得意の会話劇を交ぜながら、物事の取捨選択と二項対立で測れない混沌とした価値観について考えさせられる作品。

会話劇は相変わらず圧巻の出来。「ドライブ・マイ・カー」鑑賞時にも思ったが、車内の会話劇でこの人に勝る人はいないのではなかろうか。自然かつキャッチーで、ただ"分かり合うことって実はできないんじゃないか"という断絶も一部含まれている。

この断絶に挑んだのがグランピング施設担当の2人。自らも"上流の責任を取らねばならない下流の人間"でありながら、真摯に向きあってみる。勿論表層の理解であるため、ズレた回答もしてしまう(うどんの感想が正にその例だろう)。
ここに一縷の望みが提示される。

何かを得るとき何かを失う、と述べたが、このバランスが崩れた時どうなるか。つまり、失い続けた結果どうなってしまうのか。ここに"下流が上流の責任を取らねばならない"システムが作用したら。
それに対するアンサーが衝撃的なラストだと解釈した。もしかすると巧こそが人間の表層しか見えていなかったのかもしれない。

もう1つの解釈としては、先に述べたコミュニケーションの断絶を表したとも考えられる。夫々が正義、ある立場で物事を考えている以上、全員が納得する答えを見つけ出すことは難しいという諦めにも見えた。

いずれにせよこの行動に対して「Why?」を考えることが重要であり、人間のコミュニケーションを始めとする行動はそんな簡単に理解できるものでは無いのだと思う。
絶妙なバランス感覚を持った映画だった。
えんびふらい

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