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悪は存在しないのhasemaのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
3.9
この映画の何と言っても気持ち良いところは、タクシーの中での会話だろう。
会話はテンポよく進んでいくのだが、(他の作品にありがちな、結論に向かっていくタイプのものでなく)会話することで自分の思考が固まっていくという、私たちが経験する会話を再現している。よく考え抜かれた脚本だなあと思う。
リアリティの在り方を熟知している監督。
山田太一の脚本もそうだったけど、また違ったタイプのリアリティ。

さて、最後のシーンである。
映画が終わって、客席みんなが放り出されちゃった感だったのは、ちょっと笑えた。
それまで、濱口監督の映画にしてはとってもわかりやすかったので、「悪は存在しない、なるほどー」と思いつつ見てたはずの私たちをポーンと突き放すんだもん笑








ここからはネタバレです












「上流で起きたことは下流に影響する」

花を発見した時、手負の鹿の親子と花が対峙している数時間前の光景が、まざまざと巧には見えた。
巧は、バランスが崩されたことで花が犠牲になったことを知る。
そして、バランスを崩した側の人間は隣にいる。

たとえ分かりあうこともできた関係だとしても、上流を汚したことは、世界のバランスを壊してしまうということだ。
だから、高橋を羽交い締めにしたのだ。

「バランス」というワードを敢えて巧に語らせることは、まさしくコスモロジー的な視点。
そこから近代社会を批判的に見る濱口監督らしいラストだと言えるのでは?
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