浄土

悪は存在しないの浄土のレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.0
明確な悪など存在せずとも、悪いことは確実に起こり得る。その最たるものは死だろう。大概の人間や生き物は悪にそそのかされたり、または悪事に加担せずとも、日々を真面目に生きた結果いずれ死を迎える。

手負いの鹿が人間を襲う。普段おとなしい鹿でも、窮地に立つと予想できない行動で人を傷つけてしまう可能性がある…人間社会にとっては害悪と見なされるだろうから、当然何かしらの対処が成される。鹿側にも人間側にも道理があるのは火を見るより明らかだ。ここに悪が介在する余地はなく、あるのはバランスを保とうとする自然の摂理だけ。水が上から下に流れるのも、あらゆる生命が生まれ朽ち果てていくのも、都会に人が集まり田舎が過疎化するのも、どうしようもない自然の摂理。その「どうしようもなさ」にのみ生まれる相克こそが、あの突き放されたようなラストに繋がるのかなと思った。

今更手垢のつきまくった"自然✕都会"や"支配✕隷属"の単純な二項対立に落とし込むはずもなく、意地の悪いユーモアやジャンプスケア寸前な音の演出には明らかな濱口竜介流の「悪」が存在していたのは御愛嬌。

物語のトリガーとなるプロット、低めの人口密度と気圧による寂寥感、そしてなんとなく類似性を感じるタイトル(原題は違うけど)からズビャギンツェフの『裁かれるは善人のみ』を思い出した。
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