おにくちゃん

悪は存在しないのおにくちゃんのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.6
先に申し上げておくと昨年の映画ベストが「偶然と想像」だという事実からわかる通り私は濱口監督のファンである。
今作も期待して観た。

やられた。

高尚な構築されたものを観る気持ちで挑んだが、それを嘲笑うかのように監督の野生の感性をみせられてしまった。

後半数分になるまでいわゆるドライブするような展開は無い。
その数分でさえドライブと言えるかどうか。
森から空を見上げてそのまま車で流れて行く様なショットや、ひたすら薪を割る、水を運ぶなど冗談かと思うくらい展開の薄いひたすら長いシーンが続く。
監督の魅力の一つに会話劇の面白さがある。
今作も後半にはそれを十分発揮しているが前半は会話がほとんどない。
ひたすら固定カメラの長回しの、なんて事ないシーンが続く。
ただ、どこか不穏な空気が常に流れているので画面に引きつけられる。
何かが起こるのではと不安になり少しも飽きなかった。

上で何かがおきれば下に影響が出るという言葉からもわかる通り主題は明確。
ただし何にも答えを出していない。
考察なんて馬鹿馬鹿しいくらい監督でさえわからないし決めてないのでは。

わからないっていう答えもある。

車を使った数々の面白いカメラワークも良かった。

元々好きな監督だったが今作で別格になった感じがした。

傑作。