りりー

悪は存在しないのりりーのネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

久々に超食らいました。人物と現象の解像度が高すぎて、また自分の仕事にも重ね合わせ、心震わさずにはいられなかった。

最初、少し長いかもというくらいの自然を背景にした親子のシーンが続き、時間のことを忘れやすい主人公と、自由な存在としての娘の姿が刻に描かれる。これが伏線となっていた。丁寧に取材したことを感じさせる自然の摂理や現象の描写も、説得力を上げるのにかなり秀逸だった。

転じて、補助金狙いの中身のない新規事業の危うさ、形だけの住民説明会、芸能事務所の体制の甘さ、口だけのコンサルなど、こちらも現実世界と照らして身につまされる思いのする描写。

最後は、両者亡くなってしまったのかどうか、事業がどうなったのか、結末は分からないが、重く重く、本質を捉えないいきすぎた施策の加害性が胸に残る作品となった。

印象に残ったのは、主人公の放った、「バランスが大事なのだ」という言葉。開発が悪いことではなく、今ある自然と人のフローが乱されることなく調和すること、人同士が対話して良き解決策を見つけていくことの大切さがこの言葉に詰まっていた。

丁寧に観察することと、加害性に自覚的になること、本質的に対話することの大切さなど多くのことを学ぶと同時に、知らない間に不勉強が人を傷つけている恐ろしさも感じる。

AIの発展が凄まじく、効率を上げようと色々な手が打たれている今、SNSを通じてトレンドが急速に移り変わる今、アプリで簡単に条件を検索してパートナーを探せる今、本当に大事なバランスを失っていないか。

今だからこそ紡ぎ出させる物語であり、普遍性も感じる作品。素晴らしかった。
りりー

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