藤崎

悪は存在しないの藤崎のネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

映画館補正 ☆3.5 ~ 4.0

・オープニングと音楽がお洒落。ジャン=リュック・ゴダールを彷彿とさせる。
人間を自然の目線から覗くようなカメラワークや、長いワンショットも印象的で、登場人物たちの造形がより鮮明に映える。

・安村巧 演じる大美賀均の存在感が良い。本職は俳優では無いとの事だが、演技に余計な味付けをしていないので、”人間と自然の間”に生きる巧というキャラクターにより磨きがかかったように思えた。

・娘である花の迎えの時間を忘れたり、高橋たちの似顔絵を描く事に集中して、構ってあげなかったりと、親子としての距離感に違和感を抱きながら観ていた。

・『偶然と想像』の会話劇が好きなので、高橋啓介と黛ゆう子の車内での束の間の談笑は良かった。濱口監督は登場人物の肉付けが本当に上手いと思う。

・『もののけ姫』や『聖なる鹿殺し』を鑑賞していたのもあり、鹿は神聖な生き物という印象があった。今作でも、鹿=自然(神)の比喩として、グランピングに於ける鹿問題の会話が為されていたと思った。
“排斥されたものは別の場所に移動すればいい”
既に人間は自然を排斥し続けているにも拘らず、この言葉を発言してしまう愚かさ。これを訊いた巧の心境。そして、「水は低い方に流れる」。この台詞通り、いずれは自然のバランスを崩壊してしまう事への懸念が、あのラストに繋がっていくのかと思えた。

・自然災害のように、人間の倫理(尺度)を超えた事象に善悪の境界線は存在しない。
何を持って悪なのか? 脅威と見做して排除する事は悪なのか? そもそも、悪とは人間が勝手につくり上げた都合の良い概念ではないか? と色々考えた。
個人的に、巧は別に自然の代弁者、代理人という訳でも無いので、”人間の倫理観”という”社会のバランス”に当て嵌められるのが打倒ではないかとも思ったけれど、自然の目線からしたら、そんなものは関係無いという事なのだと取り敢えず解釈。



理解が追いついていない部分が多いので、またいつか鑑賞したい。

多くを語らず、観客に想像の余地を与えるので、鑑賞後に色々な意味で余韻を残す濱口監督の作品は好みである。
藤崎

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