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悪は存在しないのDZ015のレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
5.0
鑑賞直後物理的に震えた。濱口監督の放つ熱量に、そして受け止めきれなさに。直球社会派の展開に上映館の異常な少なさの理由はこれかなと思うも、そんな次元は超えてゆく。一夜反芻してようやく投げっぱなしのようでいて実は丁寧に伏線が張り巡らされた親切設計であったことに気付く。セリフの端々に散りばめられる含蓄、度々驚かされたカメラワーク、きめ細やかな演出。

普通に考えれば凄まじい鬱作品であるはずなのに何故だろうまるで神話のような、幻視のような不思議な後味。静謐にシリアスに進む中ふいに「あれ?笑っていいところ?」というシーンを投入してくるのも人が悪くて最高だ。

主人公「巧」はどこかヴィム・ヴェンダース監督「PERFECT DAYS」の「平山」も想起させますが実は対極的な存在なのかも知れない。想像が果てしない。

石橋英子さんの絶妙に不穏な音楽も素晴らしい。その石橋英子さんのライヴ・パフォーマンス用の映像作品『GIFT』を濱口監督が撮るという企画ありきで、ある意味偶発的に生まれたのが『悪は存在しない』とのこと。その過程も含め、監督の意図すら飛び越えた着地点、いや永遠に着地しなさそうなこの雰囲気に到達した気がする。

「バランス」が重要なテーマの作品ですが、音楽が語るときには映像が語らないその「バランス」にも感服。全編がいわゆるマジックに包まれたような傑作。
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